75回/2002年度  アカデミー賞ノミネーション

■ 作品賞   ■ 監督賞   ■ 主演男優賞   ■ 主演女優賞   ■ 助演男優賞   ■ 助演女優賞

           

主演男優賞

平均年齢50歳と、ベテランの多い主演男優部門。
これまでの全員のノミネート数を合計すると何と19回。
ベテラン組の2度目、もしくは3度目4度目の受賞なるか、
それとも29歳のブロディが制するか。




Adiran Brody : THE PIANIST / 『戦場のピアニスト』

 映画の出来は賛否両論あるとしても、エイドリアン・ブロディの熱演は誰もが認めるだろう。 ナチス・ドイツの占領下のポーランドを生き延びた実在のユダヤ人ピアニスト、ウワディスワフ・シュピルマンを演じたブロディのなりきりぶりは、 それほど凄まじかった。 ただでさえ痩せている彼は、役のためにさらに15キロ減量。 日本ではあまり名が売れていない彼だが(アメリカでも?)、コッポラ、ソダーバーグ、 テレンス・マリック、バリー・レビンソン、スパイク・リー、ケン・ローチと、出演した映画の監督は大物ばかり。 その実力が一気に開花したと言えよう。 けれども、他の4人に比べるとオスカー俳優の貫禄に欠けてしまうし、 まだ29歳という若さも受賞の障害になりそう(主演男優賞の最年少はリチャード・ドライファスの同じく29歳)。 ちなみに今年のノミニーの中で最年少なのはブロディ。 つまり、今年は20代のノミニーがいない。今年のオスカーが華やかだけど若さに欠けるのは、気のせいではなかった。


【全米批評家協会賞、ボストン批評家協会賞受賞】





Nicolas Cage : ADAPTATION / 『アダプテーション』

 95年にオスカーを受賞してからは、もうコッポラの甥とは呼ばせないと本人も力を入れたのか、 アクション映画やサスペンス映画に出まくり、親友のショーン・ペンには 「あいつは魂を売った」 と言われる始末。 まぁ言われても無理ないとも言えるし、ペンのひがみと言えなくもない。 けれども、ペンも知らないであろう、ケイジの落ちぶれた 「ニコラス刑事」 姿に唖然とした日本国民は多い(はず)。 あぁ。仮にもオスカー俳優がそんなことを・・・・ そんなニコラス刑事が久々に絶賛された演技を見せたのは、『アダプテーション』 の一人二役。 ベストセラーの「蘭に魅せられた男」 の脚本化に四苦八苦する自己嫌悪的性格のチャーリー・カウフマンと、 その双子の兄弟で、超お気楽モードな性格のドナルド・カウフマン。 二人を完璧に演じ分けた演技力と、映画の評判の高さ(『マルコヴィッチの穴』 の監督・脚本コンビ)がアカデミー会員の心を掴む。 しかし、この候補者達の前ではニコラス刑事もタジタジっぽい。 一人二役が果たして有利になるか?


# オスカーノミネート歴    '95 『リービング・ラスベガス』 (主演・受賞)





Michael Caine : THE QUIET AMERICAN / 『愛の落日』

 グレアム・グリーン原作、 フィリップ・ノイス監督(『裸足の1500マイル』)の本作品でケインが演じるのは、 50年代のアヘン中毒の英国人ジャーナリスト。ベトナムへ赴いた彼は アメリカのベトナムへの植民地政策介入に怒りを覚る中、CIAの若き青年(ブレンダン・フレーザー)と合う。 サスペンスな内容だが、政治的要素もバッチリのためにミラマックスがお蔵入りさせていた映画で、 各地の映画祭で絶賛を受けてなんとか公開に至り、アカデミー賞選考期限にもギリギリセーフ。 ベトナム政府も当時のアメリカの介入を正確に描いていると言っていて、映画の評判は高い。 しかし、今の時代にそんな役柄が票を集めるのかが疑問。 同じイギリス人ならデイ・ルイスの方が話題的にも演技的にも強烈だし、 ニコルソンはアメリカで最も人気のある俳優の一人だ。 いや、それでも間違いなく名優と言える70歳のケイン。過去の受賞は2回とも助演のため、 久しぶりに主演に候補になった今年こそはオスカーをあげたくもなるもの。 それとも3個目はあげすぎと思われるか?(男優で3回オスカーを受賞したのはニコルソンのみ)


# オスカーノミネート歴    '66 『アルフィー』 (主演)
                    '72 『探偵スルース』 (主演)
                    '83 『リタと大学教授』 (主演)
                    '86 『ハンナとその姉妹』 (助演・受賞)
                    '99 『サイダーハウス・ルール』 (助演・受賞)




Daniel Day-Lewis : GANGS OF NEW YORK
                       / 『ギャング・オブ・ニューヨーク』


 ダニエル・デイ・ルイスが、5年ぶりに靴作り修行からスクリーンに帰ってきた。 『マイ・レフトフット』 で受賞してからの12年間、出演映画は6本と少ないが、 それだけでもデイ・ルイスは観る者にも批評家にも強烈な印象を与えている。 そのなりきりぶりはただただ驚くばかり。 今回も斧で相手の頭を叩き割るなんて平気なビル・ザ・ブッチャーを演じて、強烈。 と言っても、デイ・ルイスの場合には狂演ではなく、内面に渦巻く怒りを静かに激しく演じて、 それが一層ブッチャーのキャラクターを際立たせる。 役のなりきりようには共演者も驚いていたらしいが、 ストーリー的にはどう考えてもディカプリオが主役なのに、 完全にデイ・ルイスの演技がディカプリオを食って、見事に主演でノミネート。 しかも前哨戦も制覇しまくり。それでもまだ引退宣言をするデイ・ルイス。 そんな彼を映画界が放っておくわけがない。惜しみない賞賛の声に、アカデミー会員もこぞって投票するはず。


【ニューヨーク批評家協会賞、ロサンゼルス批評家協会賞、ラスベガス批評家協会賞、ブロードキャスト批評家協会賞、オンライン批評家協会賞、全米俳優組合賞受賞】

# オスカーノミネート歴    '89 『マイ・レフトフット』 (主演・受賞)
                    '93 『父の祈りを』 (主演)





Jack Nicholson : ABOUT SCHMIDT / 『アバウト・シュミット』

 タキシードにサングラス姿で堂々と座席に座る、あのジャック・ニコルソンをまた見られる。 ララ・フリン・ボイルとのスキャンダルや、ハダカで家の周りをウロついたりと、65歳になってゴシップのネタになっても、 アメリカ人はジャック・ニコルソンが大好きだ。その飾らない人柄が人気の元であるのは間違いない。 『ハイスクール白書 優等生ギャルに気をつけろ!』(・・・・・・・)で評価の高かったアレクサンダー・ペインが監督・脚本を手がける 『アバウト・シュミット』 では、定年退職してから生きる喜びを見失った初老の男、ウォーレン・シュミットを演じる。 娘の結婚、そして見ず知らずの少年からの手紙で人生を取り戻していく姿を好演し、 映画も各批評家賞で作品賞に輝いていて評判がいい。 10年前に候補になった 『ア・フュー・グッドメン』 の時と比べると、顔も演技もかなり丸くなったニコルソン。 これで受賞したらキャサリン・ヘップバーンと並んで演技部門のオスカーを4つ手にした俳優となる。 問題は、3個もオスカーを持っているニコルソンに会員が投票するかどうか。 前回の 『恋愛小説家』 が力抜きまくり、こなれた演技で受賞だったのも気になる。 それともニコルソンの人気は(勿論実力も)そんなことなど気にならないほど高いのか。 うん。本当に高そう。ひょっとしたらひょっとするかも。


【ロサンゼルス批評家協会賞、ブロードキャスト批評家協会賞受賞、
                              ゴールデングローブ賞受賞】

# オスカーノミネート歴    '69 『イージー・ライダー』 (助演)
                    '70 『ファイブ・イージー・ピーセス』 (主演)
                    '73 『さらば冬のかもめ』 (主演)
                    '74 『チャイナタウン』 (主演)
                    '75 『カッコーの巣の上で』 (主演・受賞)
                    '81 『レッズ』 (助演)
                    '83 『愛と追憶の日々』 (助演・受賞)
                    '85 『女と男の名誉』 (主演)
                    '87 『黄昏に燃えて』 (主演)
                    '92 『ア・フュー・グッドメン』 (助演)
                    '97 『恋愛小説家』 (主演・受賞)






■ 希望 : 強いて言うならダニエル・デイ・ルイス。
■ 予想 : ダニエル・デイ・ルイスじゃないかなー