第90回/2017年度アカデミー賞ノミネーション

 

■ 作品賞     ■ 監督賞     ■ 主演男優賞     ■ 主演女優賞     ■ 助演男優賞     ■ 助演女優賞

 

 

作品賞

 

ノミネート9作品中、4作は主人公が女性、1作は黒人が主人公、そしてLGBTのストーリーが1作という、

多様性やマイノリティを謳う映画が揃った本年度のアカデミー賞。

その時代のアメリカを映し出す作品にスポットライトが当たるのはオスカーの常だが、ここまで時代を反映した候補作が揃うのも珍しいのではないか。

残る3作が40〜50年代を舞台にした英国発の時代モノというのも興味深い。

 

ロサンゼルス批評家協会賞

 

 

 

フロリダ批評家協会賞

 

ワシントンDC批評家協会賞

アトランタ批評家協会賞

 

ゴールデングローブ賞

ニューヨーク批評家協会賞

シカゴ批評家協会賞

全米批評家協会賞

  

ボストン批評家協会賞

 

 

 

 

NBOR

 

 

 

 

全米製作者組合賞

ブロードキャスト批評家協会賞

ダラス−フォートワース批評家協会賞

ヴェネチア国際映画祭金獅子賞

 

全米俳優組合賞

ゴールデングローブ賞

英国アカデミー賞

ラスヴェガス批評家協会賞

 

 

 

 

CALL ME BY YOUR NAME / 『君の名前で僕を呼んで』

作品、主演男優、脚色、主題歌賞、計4部門ノミネート

 80年代のイタリアを舞台に、年上の青年と一夏の恋に落ちる17歳の青年を描いた本作。同性愛映画というよりも初恋の瑞々しさを描いた恋愛映画の傑作と評判が高く、前哨戦を賑わせたティモテ・シャラメの主演男優賞ほか、計4部門でのノミネートとなった。アーミー・ハマーやマイケル・スタールバーグ、そして監督のルカ・グァダニーノがノミネートされなかったのは残念だが、ジェームズ・アイヴォリーの脚色賞は(他の候補の顔ぶれからしても)かなり可能性が高く、オスカー無冠の巨匠の手に金色の像が渡るのではないかと予想。気になるのは、89歳の御大が果たして長時間の授賞式に出席してくれるかどうかだが・・・

 

 

 

DARKEST HOUR / 『ウィンストン・チャーチル ヒトラーから世界を救った男』

作品、主演男優、撮影、美術、衣装デザイン、メイクアップ・ヘアスタイリング賞、計6部門ノミネート

 公開当初はゲイリー・オールドマンの演技に絶賛が集まり、作品そのもの評価はそこまで高くなかった本作だが、蓋を開けてみれば(技術部門での候補入りが多いものの)オスカー6部門ノミネート。題材的にはアカデミー賞好みの作品とは言え、最近不調が続いていたジョー・ライト監督としては再び株を上げた形になった。にしても、アカデミー賞は本当に英国近代史がお好きな模様。オールドマンの主演男優賞はほぼ固く、メイクアップ・ヘアスタイリング賞も受賞の可能性が高いし、美術、衣装デザインも絡んできそうなので、意外に受賞数は多いかも。

 

 

 

DUNKIRK / 『ダンケルク』

作品、監督、編集、撮影、作曲、美術、音響編集、音響効果賞、計8部門ノミネート

 撮る映画がことどとく傑作の評価を受けるものの、アカデミー監督賞に一度もノミネートされなかったクリストファー・ノーランが戦争映画を手掛けるとあって、とうとうオスカー初候補なるかと期待が高まっていた本作。実際、ノーランらしい複雑な構成を取りながら、観てる間はパニック映画を観ているような感覚に陥らせ、しかし最終的には戦争の存在そのものに問題を投げかける傑作になっていて、オスカー最多部門受賞となってもおかしくない作品だった。しかし、前哨戦が進むにつれてなぜか影が薄くなっていき(演技部門に一人もノミニーを出していないのも大きい)、本命争いからは本格的に外れてしまった。編集賞以下の技術部門受賞の望みは決して低くないので、せめて3部門は受賞してほしいところだが。

 

 

 

GET OUT / 『ゲット・アウト』

作品、監督、主演男優、脚本賞、計4部門ノミネート

 異色作揃いの今年度オスカーの中でも、かなり異彩を放っている本作。まだ賞レースを賑わせる前の昨年11月に鑑賞したが、確かにオリジナリティ抜群の面白さがあったものの、まさかここまでオスカー戦線に名乗りを上げることになるとは想像していなかった。基本的にはエンターテインメント精神溢れるホラーの様相を呈しながら、いまだ残る人種差別の闇を炙り出す怪作であり、2017年を象徴する一本としてノミネートされても不思議ではない位置付けなのだろう。受賞する可能性があるのは脚本賞のみで、こちらは 『シェイプ・オブ・ウォーター』 と 『スリー・ビルボード』 が名を連ねている激戦区だが、本作のオリジナリティは脚本の勝利でもあるので、もしかしたらもしかするかも。

 

 

 

LADY BIRD / 『レディ・バード』

作品、監督、主演女優、助演女優、脚本賞、計5部門ノミネート

 女性の活躍や権利が一つのテーマとなった本年度に相応しく、女性監督・脚本による女性が主人公の物語が作品賞の候補入り。もしも候補作が5作品に限られていたらノミネート当落線上だったかもしれないので、そういう意味ではノミネート枠が広がったのは良かったかもしれない。残念ながら脚本賞以外の受賞の望みは殆どなく、脚本賞も有力作がしのぎを削っているので、受賞ゼロの可能性が結構高い。まぁ、作品そのものに注目を集めることができたので、それだけでも十分かと。

 

 

 

PHANTOM THREAD / 『ファントム・スレッド』

作品、監督、主演男優、助演女優、作曲、衣装デザイン賞、計6部門ノミネート 

 待望のポール・トーマス・アンダーソン最新作は、1950年代の英国を舞台に、あるファッションデザイナーと若き女性との愛憎を描いた濃密なドラマで、12月上旬に批評家向けのプレビューが行われるや否や絶賛を浴び、ゴールデングローブ賞をはじめとする前哨戦で候補入りしたと思ったら、あれよあれよとオスカーにも名乗りを挙げた。『ゼア・ウィル・ビー・ブラッド』 に続き、PTAとダニエル・デイ=ルイスのタッグ最強説が濃厚である。主要4部門での受賞はまずないだろうが、作品のテーマや時代性から衣装デザイン賞は受賞してもおかしくないし、『ゼア・ウィル・ビー・ブラッド』 以降PTA作品を全て手掛けているジョニー・グリーンウッドの音楽も評価が高く、もしかしたらもしかするかも(希望的観測)。

 

 

 

THE POST / 『ペンタゴン・ペーパーズ 最高機密文書』

作品、主演女優賞、計2部門ノミネート

 ベトナム戦争の真実が記された国防省機密文書を巡るワシントン・ポストと政府の闘いを描いたスピルバーグ最新作は、作品賞含めて2部門のみのノミネートに留まったが、製作開始から僅か1年足らずで公開に至ったという超スピード製作を考えると、なかなかの偉業と言えるのではないか。スピルバーグ曰く、1971年と2017年のアメリカは恐ろしく似ていて、製作に数年かけるような物語ではない、すぐに映画化しなければならないと感じたたとのこと。即ち、40年以上前のことを描きながらも現代を映し出す作品であり、そういう意味で今年のアカデミー賞に相応しいという判断だろう。まぁ、実質的には受賞争いに全く関わらないので、それなら 『アイ、トーニャ』 や 『ビッグ・シック』 がノミネートされてもよかった気もするが。

 

 

 

THE SHAPE OF WATER / 『シェイプ・オブ・ウォーター』

作品、監督、主演女優、助演男優、助演女優、脚本、編集、撮影、作曲、美術、衣装デザイン、音響編集、音響効果賞、

計13部門ノミネート

 冷戦時代のアメリカを舞台に、発話障害の女性と水の中で生きる魚人の異種間交流を官能的、かつサスペンスフルに描いたファンタジーが本年度オスカーの最多ノミネートにして作品賞本命という異質な事態になったのは、移民やマイノリティへの風当たりが強くなった現代のアメリカの歪みを映し出しているからだろう。ギレルモ・デル・トロの最高傑作との呼び声も高く、監督賞はほぼ間違いなく受賞するだろうし、アクレサンドラ・デスプラの作曲賞も可能性が高いが、その他の技術部門や強豪揃いの脚本賞、そして肝心の作品賞の雲行きが微妙で、場合によっては3〜4部門の受賞に留まることも有り得る。SAGのアンサンブル部門にノミネートされていないのも大きい。なんせ、この部門にノミネートされずにオスカー作品賞を受賞したのは1995年の 『ブレイブハート』 のみなのだ(昨年度の大本命だった 『ラ・ラ・ランド』 もSAGアンサンブル部門にノミネートされておらず、結果的に 『ムーンライト』 に敗れている)。授賞式2週間前になって盗作疑惑の訴えが出てきたのも何となくマイナスなような・・・

 

 

 

THREE BILLBOARDS OUTSIDE EBBING, MISSOURI / 『スリー・ビルボード』

作品、主演女優、助演男優x2、脚本、編集、作曲賞、計6部門7ノミネート

 『シェイプ・オブ・ウォーター』 と並んで今年の作品賞本命の一つが、この 『スリー・ビルボード』。ミズーリ州の片田舎の町を舞台にした非常にパーソナルな物語を描きながらも、善悪だけでは判断できない人間の本質を様々な要素を交えて浮き彫りにしており、確かにオスカー作品賞を受賞しても納得の一本だ。とは言え、まさかの監督賞にノミネートされないという事態となり、俄かに作品賞受賞の可能性が低くなってきた。監督賞にノミネートされずに作品賞を受賞したのは、最近だと5年前の 『アルゴ』 が記憶に新しいが、その前は89年の 『ドライビング・ミス・デイジー』 まで遡らなければならず、そうそうあることではない。7ノミネート中、主演女優賞と助演男優賞は鉄壁で、監督賞候補とならなかったマーティン・マクドナーの脚本賞も受賞する確率が高そうなので、トータル4部門受賞できれば十分だが、やはり作品賞を受賞するかどうかが肝。

 

 

 

 

期待 : 『スリー・ビルボード』

予想 : 『スリー・ビルボード』

 

『シェイプ・オブ・ウォーター』 と 『スリー・ビルボード』 の一騎打ちとは言え、

どちらが受賞しても不思議ではなく、実は主要6部門で最も予想が難しい作品賞。

ここはもう個人的好みの予想で。

(2018/3/3 追記 : 『シェイプ・オブ・ウォーター』 観てきたけど、これはどっちが受賞しても文句ナシ)。