第91回/2018年度アカデミー賞ノミネーション

 

■ 作品賞     ■ 監督賞     ■ 主演男優賞     ■ 主演女優賞     ■ 助演男優賞     ■ 助演女優賞

 

 

作品賞

 

国境に壁を建設するトランプ政権へのメッセージとして、オスカー史上初の外国語映画作品賞が誕生するのか。

それはすなわち、オスカー史上初の「(ほとんど)劇場公開されない」作品賞の誕生でもあり、どちらにしても歴史的な瞬間だが、

さすがにそれはやり過ぎということで、『グリーン・ブック』が受賞しても不思議ではない。

いずれにしろ、作品賞が「最も受賞が読めない」部門なのは嬉しいことです。

 

全米俳優組合賞

 

 

カンヌ映画祭グランプリ

 

 

ゴールデングローブ賞

 

 

アトランタ批評家協会賞

フロリダ批評家協会賞

ヴェネツィア映画祭審査員大賞

 

全米製作者組合賞

ゴールデングローブ賞

NBOR

 

 

 

 

 

 

 

英国アカデミー賞

ブロードキャスト批評家協会賞

ニューヨーク批評家協会賞

ロサンゼルス批評家協会賞

ワシントンDC批評家協会賞

サンフランシスコ批評家協会賞

シカゴ批評家協会賞

ラスヴェガス批評家協会賞

ヴェネツィア映画祭金獅子賞

 

ダラス=フォートワース協会賞

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

BLACK PANTHER / 『ブラックパンサー』

作品、作曲、主題歌、美術、衣装デザイン、音響編集、音響効果賞、計7部門ノミネート

 全米公開が昨年の2月というハンデを退け、MCU作品で初のオスカー作品賞ノミネートという快挙を成し遂げた本作。"Oscar So White" の余波を引きずっているハリウッドなので、主要キャストがほぼ黒人の本作をオスカー候補に送り出すことで人種的公平性を演出しようという思惑が見えないこともないが、それでも快挙であることには変わるまい。問題は何部門受賞するかというところで、作品賞はもちろんのこと、作曲、主題歌、衣装デザイン賞は大本命がいるので、望みがあるのは美術、音響編集、音響効果賞あたりか。1部門も受賞しないと、また黒人差別という声が上がりそうだし・・・

 

 

 

BLACKKKLANSMAN / 『ブラック・クランズマン』

作品、監督、助演男優、脚色、編集、作曲賞、計6部門ノミネート

 『ドゥ・ザ・ライト・シング』の公開から30年にして、スパイク・リー作品が初の作品賞ノミネートである(リー自身も初の監督賞ノミネート)。確かに、近年のスパイク・リー作品は精彩に欠くことが多かったし、そもそも大衆に迎合するような作風の監督ではないので、これまでアカデミー賞に縁がなかったのも頷けるが、KKKに潜入した黒人捜査官というビックリ仰天な実話の本作はスパイク・リーのキャリアで最高に面白いという評判で(ただし、この手の「キャリア最高」はあまりアテにならない)、人種や性別を超えた平等を訴える近年のオスカーの流れ的にピッタリかもしれない。ただし、受賞が堅い部門は一つもなく、望みがあるとしたら脚色賞くらいか(個人的には監督賞の大逆転に期待しているのだが)。

 

 

 

BOHEMIAN RHAPSODY / 『ボヘミアン・ラプソディ』

作品、主演男優、編集、音響編集、音響効果賞、計5部門ノミネート

 あの大興奮を味わわせてくれた2018年最高の1本がオスカー候補になるとは、なんと嬉しいことか! ブライアン・シンガーの途中降板、シンガーに対して決して良い印象を持っていないと赤裸々に話しているラミ・マレックのインタビュー、そして再び掘り返されたシンガーの性的虐待疑惑など、監督に対してこれだけネガティブな条件が揃っているにもかかわらず作品賞にノミネートされたというのは、ハリウッドの本作に対する熱量の高さゆえと言っていいのではないだろうか。さすがに作品賞受賞は厳しいが、ラミ・マレックの主演男優賞はGG+SAG+BAFTA受賞で現実味を帯びてきたし、観る者を興奮の渦に巻き込むLIVE AIDのシーンは編集や音響あってこそなので、他部門での受賞も十分ありえるはず。

 

 

 

THE FAVOURITE / 『女王陛下のお気に入り』

作品、監督、主演女優、助演女優×2、脚本、編集、撮影、美術、衣装デザイン賞、計9部門10ノミネート

 授賞式の2日前というギリギリのタイミングで観てきたのだが、これは本年度オスカー最多ノミネートという展開が嬉しい作品。17世紀の英国王朝を舞台にした実話を元に語られる、悪趣味すれすれの毒たっぷりな笑いに包まれた喜悲劇は、何から何まで 「これまでありそうでなかった」 要素満載のコスチュームプレイで、個人的にはどの部門で受賞しても嬉しい限り。さすがに作品賞と監督賞は現実的ではないが、撮影、美術、衣装デザイン賞は十分可能性があるし、演技部門は番狂わせ的な受賞があってもおかしくなく、ひょっとしたら最多受賞作品になるかも。

 

 

 

GREEN BOOK / 『グリーンブック』

作品、主演男優、助演男優、脚本、編集賞、計5部門ノミネート

 トロント映画祭観客賞は今年も強し。これで6年連続で観客賞受賞作がオスカー作品賞にノミネートされ、更に、この11年で実に10本が作品賞にノミネートされているという驚異の実績だ。とはいえ、作品賞受賞まで行ったのは去年までの9本中2本のみで(『英国王のスピーチ』『それでも夜は明ける』)、決して勝率は高くない。実際、前哨戦の結果を冷静に見れば 『ROMA ローマ』 の方が圧倒的に強いし、本作は監督賞にノミネートされていないのも痛い。救いは全米製作者組合賞を受賞したことだが、近年のPGAのオスカー直結率は一時期ほど高くないので(この5年の直結率は6割)、情勢が厳しいことは確か。マハーシャラ・アリの助演男優賞はほぼ確実なので、受賞ゼロということはなさそうだが、プラスアルファでどこまで受賞数を伸ばせるか。監督賞にノミネートされなかったピーター・ファレリーとしては脚本賞を取っておきたいところだが、今年の脚本賞は強敵揃いだし・・・

 

 

 

ROMA / 『ROMA ローマ』

作品、監督、主演女優、助演女優、脚本、撮影、美術、音響編集、音響効果賞、計10部門ノミネート

 実際に観るまでは、「いくらアルフォンソ・キュアロン監督作品とはいえ、Netflix配信のメキシコ映画がオスカー最多候補?しかも作品賞本命?」と思っていたが、いやはや。これまでのキュアロン作品から更に進化したと言えるような巧さに溢れていて、何気ない日常の風景を描きながら、ラストには思わぬカタルシスが訪れるという、作品賞本命も納得の面白さ。むしろ、「こういう映画が作品賞を獲ってくれると嬉しい」という一本だ。そういう映画的な側面もさることながら、「女性が社会的に取り上げられることが少なかった時代の女性に焦点を当てた」、「メキシコを舞台にしたメキシコ人によるメキシコ映画」という題材は、今のハリウッドとって最も重要なものの組み合わせとも言え、多くの意味でオスカーに輝いても不思議ではない。ただ一つ、Netflix配給という点を除けば、である。監督本人も認めるように、本作は映画館のスクリーンで観ることを前提に作った野心的な作品であり、実際、テレビ画面で観ても物足りなさは否めない。果たしてアカデミー賞は「劇場公開されない」Netflix映画に栄冠を与えるのか否か。

 

 

 

A STAR IS BORN / 『アリー スター誕生』

作品、主演男優、主演女優、助演男優、脚色、撮影、主題歌、音響効果賞、計8部門ノミネート

 個人的にはあまり評価の高くない本作だが、前評判通りに多数のオスカーノミネートを送り出した。オスカーウォッチャーとしては、かなり確実視されていたブラッドリー・クーパーの監督賞落選がかなりの衝撃だったが、それでもクーパーの名前は作品賞、脚色賞に挙がっているのだから大したものである。受賞争い的にはレディ・ガガの主題歌賞はほぼ決まりで、脚色賞は可能性はあるものの(ノミネート5作中、作品賞候補がたったの2本!)、残る6部門は強力なライバルがひしめいており、望みが薄い。どーでもいいことだが、主題歌賞パフォーマンスでクーパーが壇上に上がるというのが楽しみなような不安なような・・・

 

 

 

VICE / 『バイス』

作品、監督、主演男優、助演男優、助演女優、脚本、編集、メイクアップ・ヘアスタイリング賞、計8部門ノミネート

 ブッシュ政権時代に副大統領を務め、影の大統領と称されたディック・チェイニーの伝記映画が、主要6部門含めて8部門ノミネート。政界から引退しているとはいえ、存命の元政治家の伝記映画がオスカー候補というのは珍しいのではないか。まだ日本では公開されてないので詳しくは分からないが、チェイニーを演じたクリスチャン・ベイルがゴールデングローブ賞の受賞スピーチで 「この役を演じるのにインスピレーションをくれたサタンに感謝する」 と言ってたくらいだから、かなり皮肉を込めた物語に仕上がってそうで、現在のトランプ政権に対する批判を込めての評価と言えるかもしれない。脚本賞と編集賞の受賞の可能性はそこそこあるが、一番有り得るのは、ベールを見事にチェイニーに変身させたメイクアップ・ヘアスタイリング賞か。でもベール自身が体重を増やしたうえでの変身だから、メイクアップ自体はそこまで評価されない?

 

 

 

 

期待 : 『グリーン・ブック』

予想 : 『グリーン・ブック』

 

映画のクォリティとしては 『ROMA』 が受賞しても文句ナシだが、

映画って大きなスクリーンで観て初めて堪能できる良さがあるわけで、

まさに本作がそうであることを考えると、むしろ 『ROMA』 以外のどれかに受傷してほしいところ。