ギャング・オブ・ニューヨーク  GANGS OF NEW YORK


directed by Martin Scorsese

cast :  Leonardo DiCaprio  Daniel Day-Lewis
Cameron Diaz  Jim Broadbent
John C. Reilly  Henry Thomas
Brenda Gleeson  Gary Lewis
Liam Neeson
('02 12 19)



 『ギャング・オブ・ニューヨーク』 である(以下、GONY)。あの職人巨匠、マーティン・スコセッシが30年間企画を暖めてきたというGONY。ディカプリオが長年熱望していた念願のスコセッシとのタッグにして、久々の主演作となったGONY。さらに、靴作りの修行でもしようかなと笑いながら映画界から5年も引退していたダニエル・デイ・ルイスの復帰作で、彼にとってスコセッシとのタッグが2回目ともなったGONY。そして同時多発テロの影響で1年も公開が延期となったGONY。製作日数が270日だかなんだかどんだか・・・・(以下略)。まぁなんというか、どこを取っても期待しないワケがないのである。例え、ひょっとしたらつまらないかもなぁと思っていたとしても、やはり何かが起こるはずだと、期待しないワケがないのである。

 1800年代半ば、ニューヨーク。幼い頃にギャング同士の抗争で目の前で父を殺された主人公アムステルダム(L・ディカプリオ)は、それから16年後、少年院から出所して、父を殺したギャング「ネイティブス」のリーダー、ビル(D・デイ・ルイス)への復讐を誓いながら、ビルに目をかけられていく。その二人にビルの女のジェニー(C・ディアス)が絡む。激しく燃えるアムステルダムとジェニーの愛(ということにしとこう)に、友の裏切りと、何と骨太なストーリー。いや、わかりやすくて先が読めるストーリー。

 この役には本当にディカプリオで良かったんだろうか。そのことがずっと頭から離れなかった。今までのディカプリオって、「若さって勢いなのよ」みたいな、エネルギーがどこへ飛んでいくのかわからないような、奔放で本能的な演技を見せることでキャラクターを魅力的にしていたんだけど、今回の彼は、父親の復讐に燃えながらも、ニューヨークで生きていくためにビルの取り巻きとして生きていくという二つの側面を持つ役。アムステルダムの心の中にある怒りを、あらわにせずして表現してくれるはずなんだが、そういった、エネルギーを内側にためこむ役はどうやら向いていないみたいでして。

 ディカプリオの最大の見せ場は(元々あまりないけど)、ある事件を契機に、自分の中にあるビルへの復讐心が鮮烈に蘇って、ビルの取り巻きとして生きていた自分との矛盾に葛藤するシーン。ここでディカプリオ、わかりやすく泣いちゃうのよ。それもこらえながら。んで、次の日からビルを暗殺するべくナイフ投げの練習とかしちゃったりして。そんなことされてもなー。フラッシュバックぐらいでしかアムステルダムの内面を描いてないもんだから、本当に君の復讐心はそこまで根強かったのかい?と言いたくなる。GONYは、ディカプリオの演技の幅が、意外にも狭いことが露呈してしまった映画だ。(その点、来年公開の 『キャッチ・ミー・イフ・ユー・キャン』 では彼らしいキャラが見れそう。少なくとも予告編では)

 もちろん、ダニエル・デイ・ルイスの「静かな怒り」というか、もはや「静かな逆ギレ」に近い凄まじさはさすが。どう考えても話的にはディカプリオが主演なのに、各種映画賞がどこもかしこも主演扱いにしてるところからも、彼の凄さがわかる。たがキャメロン・ディアスの役は、いてもいなくても同じ。主演二人の添え物程度で、特に後半の扱いはひどいものが。ひたすらディカプリオの隣りにいるだけに成り下がってしまい、「すべては、愛のために」というキャッチコピーは200%ウソです。いい演技してるのになぁ。勿体ない。

 先にも書いたように、監督は職人巨匠のマーティン・スコセッシ。当時のニューヨークをセットで再現し(舞台装置だけでなく街の荒んだ雰囲気も)、信念を貫く男たちの物語、相変わらず健在な容赦ない暴力描写(デイ・ルイス、相手の頭を棍棒でぶち割るんだもんなー)と、それだけで見応えはある。そして映画も終盤になると、実は監督が、一人の男の復讐の物語ではなく、1800年代半ばのニューヨークを描きながら、その時代に押し寄せた新しい時代の波の前で、無力となっていく人々、そして新しいニューヨークが生まれようとする時代を描こうとしたことがわかる。だが、そうだとしても、その時代に生きた人々をしっかりと描ききってこそ映画として傑作になると思うんだよなー。そこらへんが、デイ・ルイスと見事なセットに頼りっきりで、ぐいぐいと引き込まれなかった。

 そんな時代の波にうまく順応しようとした人の一人として登場するのが、ジム・ブロードベント扮する権力者のトゥイード。昨年のアカデミー助演男優賞を受賞した『アイリス』 といい、『ムーラン・ルージュ』 といい今回といい、彼の変幻自在ぶりには驚くばかりだ。実は、GONYの中で一番上手く見せてくれたのは彼だったりする。そしてアムステルダムを裏切る友人のジョニーを演じるのは、あの 『E.T.』 のエリオット少年。あぁ。妙なところで時代を感じるのであった。





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