アダプテーション ADAPTATION


directed by Spike Jonze

cast :  Nicolas Cage  Meryl Streep
Chris Cooper  Cara Seymour
Tilda Swinton   Ron Livingston
Maggie Gyllenhaal  Curtis Hanson
('03 08 30)



 ブッ飛び発想の 『マルコヴィッチの穴』 の監督・脚本コンビが再び組んだ 『アダプテーション』 は、またもやとんでもない物語でした。主人公は本作の脚本家、チャーリー・カウフマン自身。スーザン・オーリアンのベストセラー、『蘭に魅せられた男』 の脚色(アダプテーション)を依頼された彼は、『マルコヴィッチの穴』 を超える話を書きたい! なんて思いながらもなかなかいいアイディアが浮かばない。書けない書けないと悶々とする彼の側には楽天家の双子の弟なんてのもいて、そっちはそっちで自分も脚本家になると言い出し、しかも書いた脚本は大当たり。焦るチャーリー。四苦八苦した末に考え付いたのは、自分を脚本に書いてしまえ! という無謀にも大胆な発想なのであった。

 チャーリー・カウフマンを演じるのはデブでハゲのニコラス・ケイジ。ついでに双子の弟も演じて、ケイジは一人二役だ。オスカーを受賞してからやけにアクションやら、真面目なドラマやらで頑張っていたケイジが、ようやく本領発揮に戻ってきた。胸毛たっぷり、腹の贅肉たっぷりだけど頂上の髪の毛は薄いケイジの情けなさっぷりに加えて、そんなケイジが画面に二人いて普通に会話してるっていうダブルパンチの面白さだ。後述する二人も面白いが、やっぱり場をさらっていくのはダブル・ケイジなんである。

 カウフマンの話と並行して、著者のスーザン・オーリアンと、本の主人公ののジョン・ラロシュのストーリーも展開する。演じるのはメリル・ストリープにクリス・クーパー。『マルコヴィッチの穴』 の主人公3人に比べてグッ、と平均年齢をあげる2人だが、『アダプテーション』 のスクリーンからは年寄りくささを全く感じない。汚なづくりで前歯のない蘭泥棒をクーパーが演じれば、メリルはインテリな女性ライターだけじゃなく、暴走するイカレ中年女も怪演。二人とも勢いのある若手みたいな演技をしているのだ。まさか、ヤクでラリっちゃうストリープを見れるとはねー。ラリった二人が電話越しでワケもなくハモり出すシーンの可笑しさ! すっかり熟年カップルの演技にやられてしまった。クーパーは本策で見事オスカーを受賞。まぁ、上手さならノミニーの中のポール・ニューマンやクリストファー・ウォーケンの方が上だけどね。

 カウフマンが原作を映画化していくプロセスに、スーザンがラロシュを取材していくうちに情熱に目覚めていく物語を並行して描く、リアルだけれども 「映画」 な前半は面白い。俳優達の演技も楽しめるし、ユーモアのセンスも抜群だ。カウフマンの物語にしながらも、さりげなく原作の想いを伝えているのが上手い。『マルコヴィッチの穴』 の製作現場なんていう内輪ネタもついてきて、ますます楽しめる。だが、カウフマンがスーザンに会いに行ってからの後半は現実と虚構の世界が入り混じり、俄然混沌とした世界に。ケイジ演じるカウフマンがこういうのは絶対書きたくないと言っていた、セックス、ドラッグ、交通事故、殺人のオンパレード。やっぱりこういうのがないと映画は成り立たないのか? けれども、そんなモノあったって映画は面白くならないよと言わんばかりに、『アダプテーション』 は転がるように支離滅裂になっていく。ハリウッドライクのストーリーは御免という脚本家は、それを皮肉るにも奇妙な手段を使うのであった。だが、独創的な試みは試行錯誤で終わり、観てて楽しみきれない。主演3人(4人?)に頼りきってるように思う。とは言っても、この監督・脚本コンビが最後にどこに行き着くのか、これからも見てみたい気もするのだ。

 年を負うごとに骨格がガッシリしてきてるんじゃないかと思わせる顔つきでラリってるメリルは、天晴れだがコワイ。僕が大好きな石川三千花がメリルのことを 「魔女顔」 とよく言っているが、クーパーとのベッドシーンのメリルの顔はまさに魔女であった。そう。ボディダブルかもしれないが、メリルはケイジともクーパーともベッドシーンを一瞬演じるのだ。まともに考えればすごいシーンである。『マディソン郡の橋』 のなんてメじゃない。そこまでやるなら、アクションめいてくる後半でメリルにもっと色々やってほしかったなー。ケイジを蹴るとか殴るとかさー。





back