アメリカン・ビューティー AMERICAN BEAUTY


directed by Sam Mendes

cast :  Kevin Spacey  Annette Bening
Thora Birch  Mena Suvari
Wes Bentley  Chris Cooper
Peter Gallagher  Allison Janney
('00 05 02)



 これは面白いです。絶対見ておかなきゃ。ブラック・コメディーとカテゴライズされるのだが、どうにも上手く形容し難い。そこが大きな魅力で、全体のタッチはコメディだけれど深く、悲劇だというのにどこかしらおかしみを伴う。その微妙なバランスの取り具合が最高で、スピルバーグをして、一切リライトせずに映画化するようにと言わしめたアラン・ボールの脚本も見事ならば、これで映画デビューというサム・メンデスの的確な演出も大したものだ。この二人に加えて、どこか現実離れしているような映像なのに、それでいて妙な現実感を漂わせた、撮影のコンラッド・L・ホールもオスカーをゲットした。

 コメディなので、それぞれの間の取り方が映画の鍵とも言えるが、メンデスの演出も見事ながら、それに応える演技陣がまた素晴らしい。今作品で2度目のオスカーを獲得したケビン・スペイシーは、これまで不気味で頭のキレる男を多く演じてきたが、娘の友達に欲情しまくるダメ親父のレスターを、ハンパじゃなくおかしい顔面演技で演じている。シリアスな中にもコメディ的要素をバランスよくミックスさせるあたりも一級品の演技だ。ガーデニングと不動産に熱中する妻キャロリンにはアネット・ベニングだが、ギリギリのオーバーアクションが、また最高におかしい。同じセリフを自分に言い聞かせながら呪文のように唱え、ちょっとずれた信念をひたすらで貫き通そうとしながら滑稽なまでに突き進む彼女の姿は、おかしみと同時に哀れみも誘う。そして、この二人の対決シーンのおかしさったらないのだ。残念なことに、ベニング姐さんはオスカーを逃してしまったが、素晴らしいコメディエンヌである。

 その他、二人の娘のジェーンにソーラ・バーチ、レスターが夢中になるジェーンの友達アンジェラにミーナ・スヴァリ、ジェーンに好意を寄せる隣人リッキーのウェス・ヴェントリーと、どれも自分の役割をしっかりとわかって演じていてハズシがない。特にウェス・ヴェントリーの狂気に走るギリギリの演技がミモノで、この映画の根幹とも言える、彼が"美"について語るシーンは見事。彼の父親を演じるクリス・クーパーも、渋さ一辺倒の中におかしみと情けなさを出すラストなど、さすがの演技である。

 何より素晴らしい演技なのが風に舞うビニール袋で、このシーンに『アメリカン・ビューティー』の全てが詰まっている。日常の中に隠れている"美"を見つけるのは難しいことではない。なのに、その存在に気づかずに、自分の"美"を求めることで四苦八苦する登場人物たち。そんな彼らの滑稽な生き方を、コミカルに、しかし哀れみを誘わずにいられない演出で描き、彼らを思わず応援したくなるような不思議なすがすがしさをも、この映画は持っている。前にも後にも、このような作品はなかなか生まれないだろう。そうそう。ピーター・ギャラガーでさえ、この映画に出るとフツーのお方に見えるんだから、やっぱりアメビューはスゴい。
 





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