結婚してから40数年、共に暮らしてきた夫婦が、妻のアルツハイマーという現実に直面する。症状が少しずつ進行する妻は介護施設への入所を決めるが、入所から1ヶ月間の面会禁止の間に妻は夫のことを忘れてしまい、代わりに施設の別の男性の世話に尽くしていた。その姿を見た夫が取った選択とは・・・
次第にアルツハイマーに侵されていくジュリー・クリスティの演技が絶賛されたことで映画の存在そのものが広く知られるようになった本作だが、誰もが迎える可能性がある老後の夫婦の姿をドラマティックにも冷静にもなり過ぎず、とてもリアルに描いていた。物語の後半で、夫である自分を忘れてしまった妻の姿をただ見つめることしかできない夫の心情や選択が描かれるのだが、それがきれいごとではなく、長く生きてきた人間だからこそ抱える想い、悩みとして描かれていて、僕らでもこれだけ身につまされるんだから、実際に老後を間近に控えている夫婦が観たら真剣に思い詰めてしまうんじゃないかと心配にななっちゃうくらい。これがまだ28歳というサラ・ポーリーの初監督作というから驚きだ。
ジュリー・クリスティはオスカー前哨戦をほぼ制覇しただけあって、前半ではアルツハイマーで自分を見失っていくことを恐れながらも冷静に受け止めようとする妻の姿、後半では症状が進行して子供のように無邪気になった一人の女性という難役を見事に演じていた。だが、僕が観ていて心を打たれたのは、そんな妻を見守る夫を演じたゴードン・ピンセントの演技だ。これまで片時も離れたことがなかった妻と離れ離れになって暮らす生活の寂しさ。夫婦として長年一緒に暮らしてきたことを全て忘れてしまい、他の男性に甲斐甲斐しく尽くす妻の姿を見守ることしかできないやるせなさ。その物言わぬ表情に胸を打たれた。
それにしても、長年一緒に暮らしてきた年配の夫婦の物語は(こういう表現を使うと俗っぽいけれど)外しがない。『アイリス』 のジュディ・デンチとジム・ブロードベント、『きみに読む物語』 のジェームズ・ガーナーとジーナ・ローランズ、そしてこの映画の主役2人のように、その年代の役を演じる俳優であれば人生とシワの積み重ねを感じさせる上手さがあるので当然と言えば当然なのだが、彼らの物語を観ていると、こういう形の愛こそ本物の純愛と呼べるものなんだなぁと思う。ただ相手を愛おしく想い、慈しむ。そこらじゅうで溢れかえっている 「純愛ラブストーリー」 と銘打つデートムービーなんかより、ずっと美しいです。
|