1993年、ソマリア。民族間の内戦の真っ只中、米兵がソマリア軍の幹部を拉致するためにソマリアの首都、モガンディオに放り込まれる。彼らを援護するのは空中を飛ぶ4機のブラックホーク。1時間もかからずに終わるはずのミッションだったが、民兵のロケット砲での応戦、ブラックホークの撃墜、延々と続いた銃撃戦。このミッションはいつの間にか15時間にも及ぶ「戦い」となり、米軍はベトナム戦争以来の痛手を被ることになる。
リドリー・スコットと言えば『エイリアン』 、 『テルマ&ルイーズ』 、 『ブレードランナー』 と、常に映像派監督としての地位を確実に保ってきた人だ。駄作も多かったものの、アカデミー賞に輝いた『グラディエーター』で完全復活。その後『ハンニバル』に今作と、2年間に3本の映画を作り、どれもボックス・オフィスはバッチリ。2年連続アカデミー監督賞にノミネートされ、超がつく絶好調である。そして、『ブラックホーク・ダウン』はリドリー・スコットの間違いなく最高傑作だ。彼がスクリーンに映し出す戦争は、映像派らしく全てが美しく、だがリアルに映像化されている。そして実際に戦地に赴いた人間が「これまで観たどの戦争映画よりも本物に近い」と絶賛する音響と、見事な編集のコラボレーション。すごく映画的なのに、戦争のどうしようもなさを伝える。映画が始まって20分程経てば、残りの2時間はほぼ戦闘シーンだ。ただただ銃撃戦にロケット砲。その間にスコットは感動で盛り上げることをせず、淡々と15時間の戦いを追い続ける。登場人物の区別もつきづらい(ユアン・マクレガーですら識別し難い)。だが、それすらリアルに思えてくる。こんな余計なものを排除した戦争映画は今までにあったんだろうか。ここにはウィレム・デフォーの雄叫びも、トム・ハンクスのヒューマニズム的セリフもない。では何がある? それは、ラスト近くの、ジョシュ・ハートネット扮するエヴァーズマン軍曹と、エリック・バナ扮するデルタのフートとのダイアログにある。だが、それさえも戦地では考えるヒマがないのか。守り、戦う。守り、戦う。すさまじい。震えた。
後はもうスクリーンで観ていただくとして(ビデオは絶対ダメ!劇場に足を運ぶこと!)、驚くのはこれがジェリー・ブラッカイマー製作ってことだ。あの『パール・ハーバー』のジェリー・ブラッカイマー。以前予告編を観たときは、ブラッカイマー製作の戦争映画でJ・ハートネット主演、トム・サイズモアも出てるなんて、まさにPHじゃん、とタカをくくっていたが、天と地の差以上。是非ご覧あれ。
2001年にはアメリカで5本の映画が公開されたJ・ハートネットだが、そのうち2本が大ヒット戦争映画だけあって、今年のアカデミー賞では主題歌賞候補曲メドレーのプレゼンターをやっていた。だが、有名になるのは苦手という彼らしく、そわそわしながらスピーチも程々にして切り上げていた。きっと純朴な青年なんだろうな。映画デビューしてまだ5年目。その「薄さ」を武器に頑張ってほしい限り。
ちなみに、冒頭で新入りとして入隊するブラックバーンを演じるのは、『ロード・オブ・ザ・リング』の金髪のエルフ、ラゴレル役のオーランド・ブルームです。かなりわかりづらい。さらに、この映画には実際にソマリアで戦った兵士が、何と「本人役」で出演している(しかも結構重要)。
|