しあわせの隠れ場所 THE BLIND SIDE

 

directed by John Lee Hancok

cast : Sandra Bullock  Tim McGrew

Quinton Aaron  Jae Head

Lily Collins  Ray McKinnon

Kim Dickens  Adriane Lenox

Kathy Bates  Catherine Dyer

('10 02 28)

 

 

 2009年にNFL(National Football League)のチームに入団したフットボール選手、マイケル・オアーの半生を映画化した感動の実話スポーツドラマということで、アメリカでは比較的なじみのある題材のストーリーのようだが、日本人の僕はそんなこと全く知らないわけでして、個人的には主演のサンドラ・ブロックがまさかのオスカーを受賞してしまうかもしれない作品ということで気になっていた。しかし、よくよく見ると監督はジョン・リー・ハンコック。同じくスポーツを題材にした感動の実話の映画化、『オールド・ルーキー』 でこちらの涙をこれでもかと絞り取った人だ。もしかしたら思わぬ拾い物になるかもしれないと思っていたら、期待通り。真っ直ぐなストーリーと演出に気持ちよく感動できる、いい意味でウェルメイドな1本だった。

 

 ホームレス同然の暮らしをしていたマイケルを、彼のことをよく知らないのに突然家に泊めてあげて面倒を見るサンドラ・ブロックや、それに何も文句を言わずに受け入れていくサンドラの家族、マイケルの勉強を丁寧に見てあげる先生たちなど、登場人物のほとんどが物分かりのいい 「いい人」 として描かれているので、これがフィクションだったら、話が出来過ぎなんじゃないの?と思うところだが、実話というところが強い。実話だと知って観ていると、世の中にはこんな良心も存在するんだ、こんな良心に支えられて成長した人もいるんだと、曇りのない気持で感動できる。マイケルを支えた最大の良心は、彼を家族として迎え入れたサンドラ・ブロック演じるリー・アンと、その家族たち。彼がフットボール選手として活躍していく姿を観ることは、家族を大切にする、家族を守るという気持ちが、人間を強く成長させていくのだと感じることでもあるのだ。これ、『オールド・ルーキー』 の時と同じパターンだね。今、家族に支えられたスポーツ選手の感動の実話を描かせたらハンコック監督の右に出る者はいないでしょう。

 

 そんな良作なのに惜しいのは、日本の配給会社がアカデミー賞シーズンに公開できるように慌てて色々アレンジしたからか、前宣伝が十分じゃなくて知名度が低いまま公開になってしまったり(2月末の公開が決定したのが確か今年に入ってから)、都内で上映してるのが4館しかなかったり、そもそも 『しあわせの隠れ場所』 っていう邦題がストーリーに全然関係なかったりすること。ある程度ヒットしてくれれば別にいいのだが、もうちょっと準備がしっかりできてから公開の方がよかったと思う。

 

 サンドラ・ブロックは本作でブロードキャスト批評家協会賞、ゴールデングローブ賞、全米俳優組合賞の主演女優賞を受賞し、とうとう初のオスカーノミネートだ。そこまでの演技とは思わないけど、ロマコメ系で持ち前の明るさとユーモアを発揮することが多かったサンドラにとって、家族を何よりも大切にするユーモアのある母親で、家族を守るためには口の悪いオヤジをやりこめたり、ワルの黒人相手に "bitch" と言い返して啖呵を切ったりするリー・アン役は、新たなハマリ役で彼女にピッタリだ。時には内面演技を見せて心の中の迷いも覗かせるあたり、大人の女優になった感もあるし、ハマリ役という意味では 『エリン・ブロコビッチ』 のジュリア・ロバーツに近いものがあるので、オスカーを受賞しても納得。そう言えば、サンドラが 『スピード』 でブレイクして人気絶頂だった頃に何かの雑誌のインタビューで賞レースについて聞かれて、「(オスカーを受賞するなら)40歳を過ぎてからで十分だわ」 みたいなコメントをしていたが、まさか本当にそうなりそうになるとは思ってもみなかった。人気、キャリアともに、ハリウッドを代表する女優であることは間違いないので、受賞してほしいものです。