キャスト・アウェイ CAST AWAY


directed by Robert Zemeckis

cast :  Tom Hanks  Helen Hunt
Nick Searcy  Christopher Noth
Lari White
('01 02 24)



 さぁ、『トム・ハンクスのキャスト・アウェイ』の時間です。それとも『イッツ・トム・ハンクス・ショウ!(副題)キャスト・アウェイ』?

 トム・ハンクス扮するチャックは、FedExの社員。世界各地を飛び回ってのお仕事におおわらわで、恋人のケリー(ヘレン・ハント)には滅多に会うことが出来ない。そして大晦日は一緒に過ごすとクリスマスに約束したそばから、乗ったヘリが太平洋に不時着。かくして彼の4年間の無人島生活が始まった。正確に時計を見ながら映画を観ていたわけではないが、2時間24分の恐らく半分以上は無人島でのチャックの生活だ。つまりハンクスの独壇場ってわけ。無人島に流れ着いた彼は、ココナッツを割る、テントを作る、服を作る、魚をとる、などなど(ありがちな)野生の生活を始める。そう。ケリーの写真を支えにしながら。そして、バレーボールのウィルソンを友として。

 特筆すべきなのは、ヘリが落下するシーンから無人島を出るまでの間、音楽が一切使われていないのだ。聞こえてくるのは打ち寄せる波の音だけ。ロバート・ゼメキス監督は、この波の音の変化だけでチャックの心情を表そうとしている。さすがはゼメキス。しかし、それでもやはりこれだけのシーンを一人でかっさらって場を持たせるハンクスには、さすがの一言。無人島での4年の生活をリアルにするため、1年間撮影を中断して彼は25キロのダイエットに臨んだとか(その間にゼメキスは『ホワット・ライズ・ビニース』を撮った)。役者魂とは縁遠そうなハンクスだが、今回の無人島での彼は、今までの‘イイひと’役とはワケが違う。人のことを思いやろうにも、そんな相手はいない。心の拠り所は写真とバスケットボール。普通ならアブナいオタクになってしまう(そんなの関係ないか)。しかし、そんな役でもハンクスは観客が共感を得るような演技をした(ゼメキスの素朴な演出によるところも勿論大きい)。数少ない小道具で無人島生活の厳しさをウィルソン相手に愚痴をこぼしてみたりして孤独感も上手く表現。5度目のゴールデン・グローブ賞受賞、そしてアカデミー賞候補も納得だ。同じトムでも、トム・クルーズにここまでワンマンショウな映画は出来ないはずだ。彼の場合は共演者を押しのけて「オレはトム・クルーズ」オーラを発してなんぼだからね。

 だが、無人島から戻った彼は、やはり‘イイひと’に戻ってしまう。無人島での生活を体験したことで現代人の物質社会的生活をかえりみよう。こういうありがちな現代生活の批判をこの映画は言っていない。良かった良かった。そんな安っぽいメッセージはゼメキスらしくない(ハンクスらしいけど)。無人島での孤独を体感した彼は、現代社会でも孤独を感じる。現代社会の虚無感を体感する。しかし、現代社会で生きていくことを選んだ彼が、これからどうするのか、自問自答しながら友人に吐露するシーン。あぁ、やっぱり。ハンクスは心からイイひとになってしまったのね。彼のこの演技、しらけるんだー、オレ。オレなんかが絶対なれそうにない、根っからのイイひとの境地。ま、仕方ないか。トム・ハンクスがアメリカの善良な一市民を演じ続けてかれこれ10年以上。観客が彼に求めるものは変わってないんだから。あのシーンがなければスマイル3個(もしくは4個)上げてたな。

 共感したのは、無人島から脱出する計画が具体化されてくると、チャックは俄然活気が出てきて目が輝き始める。生きて無事現代社会に戻るために彼が四苦八苦して脱出、そして生還へ向かっていく場面。人間としての本能的な行動、感情を見せられた。絶望の中で希望を手に入れようとする人間の強さ、しぶとさ。同じ帰還モノの『アポロ13』でのハンクスとは一味違う。





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