ダラス・バイヤーズクラブ DALLAS BUYERS CLUB

 

directed by Jean-Marc Vallée

cast : Matthew McConaughey  Jared Leto

Jennifer Garner  Denis O'Hare

Steve Zahn  Michael O'Neill

Dalls Roberts  Griffin Dunne

('14 02 22)

 

 

 まだエイズに対する治療法が確立されておらず、ホモセクシャルしかHIVに感染しないという誤った認識から、HIV感染患者への差別が日常茶飯事だった1980年代のテキサス。HIVに感染した実在のロデオカウボーイ、ロン・ウッドルーフは、当時アメリカで未認可だった治療薬を密輸入し、自分のだめだけではなく他のエイズ患者にも販売する "ダラス・バイヤーズクラブ" を設立し、それを阻止しようとする製薬会社やFDAを相手に、決して屈することなく戦い続ける。

 

 今年のアカデミー賞レースを賑わせているマコノヒーとレトの激ヤセっぷりが先行して話題になっている本作。ただそれだけの映画ではないのだが、そうは言っても2人の激ヤセっぷりは凄い。あのマッチョなマコノヒーが20kg以上の減量でやつれた容姿になっているかと思えば、『チャプター27』 で30kgの増量で役に臨んだレトが今度は13kgの減量でペチャンコのお腹を見せていて、これぞ役者魂という肉体変化を見せてくれる。近年ここまでやってくれたのは 『マシニスト』 のクリスチャン・ベイルと 『ハンガー』 のマイケル・ファスベンダーくらいじゃないだろうか。だが、映画を観進めるうちに2人の 「見た目」 の説得力は演じるキャラクターの魂へとつながっていき、ただの肉体変化だけではない、しかしその肉体変化がなければ生まれなかったであろう演技になっていた。2人ともにオスカー最有力候補なのも納得。

 

 最初は同性愛に対する偏見と差別の塊だったロンが、ダラス・バイヤーズクラブの 「仲間」 となる同性愛者たちに心を許していく過程が自然で、差別しなくなった主人公を英雄視したり美化したりすることなく話は進んでいく。そのうちに物語は次第に製薬会社やFDAを相手にした戦いの様相を呈してくるが、それも理念や気高い精神論に突き動かされたものではなく、欠点のある一人の人間の生への執着と死の恐怖が、結果として権威への反骨精神へとつながっていくところがリアルだ。そして、そんなロンの姿に心を動かされた周囲の人々が自分なりの行動を起こしていく其々のエピソードがいい。ジャレッド・レト演じるレイヨンがクラブの存続のため、ロンのために一肌脱ぐエピソードは、レトとマコノヒーの静かな名演も相まって心を打つものがあった。今年の名シーン入り、間違いなし。