大好きな 『ザ・ロイヤル・テネンバウムズ』 のウェス・アンダーソン監督が帰ってきた! 前作の 『ライフ・アクアティック』 が期待外れだったので、この 『ダージリン急行』 は観ようか観まいか迷っていたのだが、『ザ・ロイヤル〜』 と同じく、何てことない話なのに観終わった後には不思議な温かさが残っていい気分で映画館を出れる。そんな映画だった。やっぱりタダモノではないアンダーソン監督。その独特のセンスで秀作を作り続けてほしいものです。
毎回風変わりな家族を登場人物に描くアンダーソン監督だが、今回は1年近く連絡を取っていなかった3兄弟がダージリン急行で旅をし、企画者の長男曰く 「精神的な旅(spiritual journey)」 な道中を描く。と思ったら、映画の冒頭で出てくるのはなぜか話には関係ないビル・マーレイ。そしてダージリン急行に乗ろうとして走るビル・マーレイ! いきなりココが可笑しくって大笑いしてしまった。このマーレイのコメディセンス、さすがだなぁ。『天才マックスの世界』 以来、アンダーソン監督の映画には毎回登場するマーレイだけど、彼を毎回起用する監督の趣味もナイスだ。
話を元に戻して、このちょっとズレた3兄弟が織りなすゆるいエピソードをなぞっていくうちに、いつの間にか3人の間に生まれた絆みたいのがさりげなく浮かび上がったりするのがアンダーソン監督の上手さなのだが(後半の3人のシーンはどれを取ってもお気に入りのシーンだ)、演じる3人の独特の間(ま)がまた上手くて自然。アンダーソン監督とはデビュー作からの付き合いのオーウェン・ウィルソンに、『天才マックスの世界』 の主役でデビューしてからを演じてから10年ぶりのアンダーソン作品となるジェイソン・シュワルツマン(微妙な背の低さが絵になるのがすごい)、そして今回初めて参加して俳優として新たな味を出してくれたエイドリアン・ブロディと、登場人物のキャラクターと波長が合う俳優、そして自分の演出を信頼してくれる俳優を起用できるアンダーソン監督ならではのキャスティングだ。3人とも好きでも嫌いでもない普通の俳優にしか思ってなかったのだが、一気に3人とも好きになってしまった。そう言えば 『ザ・ロイヤル〜』 ではベン・スティラーのことを好きになったっけ。もちろん、アンダーソン監督作品に欠かせないアンジェリカ・ヒューストンの圧倒的な存在感も忘れられません。
アンダーソン監督のセンスの良さは演出だけじゃなく、劇中で流れる曲やセットや衣装にもよく現われている。ダージリン急行の外観はもとより、内装や客室乗務員のコスチュームは観てて楽しいインドな色彩感に溢れてるし、3人が道中で滞在する村人たちの真っ白な衣装もさりげなくセンスがいい。O・ウィルソン演じる長男が自分の靴を盗まれて、右左別々の靴を履いているのもおシャレだ。ちなみに3人兄弟が持っている父親譲りのカバンのカッコいいデザインは、マーク・ジェイコブス for ルイ・ヴィトン。欲しい! そして最後のエンドクレジットで流れるのはシャンソンのあの名曲。物語のエンディングの雰囲気と絶妙にマッチして、その余韻に酔いながら映画館を後にできます。いやー、最後までおシャレで味わいのある映画だなー
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