プラダを着た悪魔 THE DEVIL WEARS PRADA

 

directed by David Frankel

cast : Meryl Streep  Anne Hathaway

Stanley Tucci  Emily Blunt

Adrian Grenier  Tracie Thomas

Simon Baker  Rich Sommer

Daniel Sunjata  Tibor Feldman

Stephanie Szostak

('06 11 18)

 

 

 全米での予告編をウェブで初めて目にした時から、早く観たくてしょうがなかった 『プラダを着た悪魔』。いや。“悪魔になったメリル”だな、観たかったのは。メリル・ストリープが悪魔のような鬼上司を演じる。これを見逃す手があるだろうか! ということで、公開初日に劇場に足を運んじゃいました。

 

 メリルが演じるのは、世界の流行をリードするファッション雑誌の編集長にしてファッション界のカリスマ、ミランダだ。カリスマ長の割には着てる服が妙にオバさんっぽく、始終野暮ったく見えたりするのだが、そこは目をつぶろう(つぶっていいのか?)。まずは冒頭、メリルが登場するシーンで胸が高鳴った。メリルが予想より早く出社したことで一気にざわめき始める社内。社員が慌てて机の上を整理したり、パンプスからヒールに履き替えたりして、一体どんな悪魔っぷりなんだろうとドキドキだ。ところが、鬼上司メリルは大方の予想を裏切り、大声でまくし立てたり険しい表情で睨みつけたりはしないのであった。声は決して荒立てずに、平然とした口調で容赦なく無理難題を命令してくるのだ。そして最後には必ず “That’s all.(以上よ)” と、これ以上ワタシに言わせないで、と言わんばかりの決めゼリフ。これは一番扱いにくいパターンだね。まだ怒鳴られた方がマシ、みたいな。こんなイヤな上司っぷりを、メリルは憎々しく演じてくれます。「ハリー・ポッターの未発行の原稿を手に入れて」 と言うシーンなんて、くぅ〜、ヤな上司〜、って感じだが、観客は、そのヤな上司っぷりを一歩離れたところから見て笑うことができる。そんなセンスが絶妙だ。

 

 だが、さすがメリル・ストリープ。彼女はミランダを 「コミカルな鬼上司の役」 だけに終わらせず、更に掘り下げて演じてくれた。例えば、職場ではデカイ顔でアシスタントにダメ出しするミランダだが、家では夫と上手くいっていない。そんなミランダの一人の女性としての内面を、ふっとのぞかせるシーン。それは、いつものミランダとはちょっと違うんだけど、決して別人ではない、紛れもないミランダと思わせるメリルの説得力。そして、最後の方で車の中でアン・ハサウェイ演じるアンディに語るシーンは、演技派女優として最大の見せ場だ。アンディはミランダの話を聞いた後、映画全体の肝とも言える決断をするのだが、その決断をさせるだけの重みをミランダという役柄に与えたメリルの演技に、うなった。このシーンだけで、ミランダのこれまでの人生を物語っていると言っても過言ではない。こんな軽いトーンの映画で、これだけの演技ができる女優が他にいるか? またまたメリル・ストリープの凄さを再認識してしまった。

 

 ということで、メリルの演技にもブランドにも興味がない人にとっては、大して後味も残らない軽いデートムービーってとこだろうか。適度に笑って適度にしんみりするので、観てる間は楽しいかもしれない。スタンリー・トゥッチが可笑しいのはもちろん、アン・ハサウェイ(随分きれいになった)とエミリー・ブラントもなかなか健闘していた。それでも一番可笑しくて好きなのは、一瞬の表情とセリフ一つで場をさらう、ラストシーンのメリルなんだけどね。