フリーダ FRIDA


directed by Julie Taymor

cast :  Salma Hayek  Alfred Molina
Valeria Golino  Mia Maestro
Roger Rees  Patricia Reyes Spindola
Diego Luna  Margarita Sanz
Geoffrey Rush  Ashley Judd
Antonio Banderas
('03 08 10)



 ジュリー・テイモアの映画監督デビュー作 『タイタス』 を観た時、強烈な色彩とグロテスクさに彩られた映像は確かに面白かったが、それが映画の力になっていないなぁと感じた。画面と俳優の演技だけが先走りしていて、キャラクターの内面につながって来ないのだ。シェイクスピアという題材を使いながら人間心理にアプローチできていない。そのテイモア監督の第2作目が、メキシコの実在した女流画家フリーダ・カーロの人生を描いた伝記映画。タイトルロールを演じたサルマ・ハエックの熱演はオスカー候補にまでなった。

 冒頭、カラフルな彫刻や庭の中をベッドに乗せられて運ばれていくフリーダ。おぉ、またまたテイモア監督の映像世界が全面に出るのかと思ったが、メキシコという土地柄のせいか今回はあまり目立たない。その代わり、フリーダ・カーロの絵が動き出したり涙を流したりと、彼女の絵画の世界を映像にすべく工夫が凝らされている。学生時代のバスの事故で鉄棒が子宮から膣へと貫くという壮絶な事件から、女癖の悪い壁画家にして革命家のディエゴ・リベラとの波乱に満ちた結婚生活、メキシコへ亡命中のトロツキーとの不倫関係など、フリーダ・カーロの激しく、そして孤独な絵には彼女の人生が現れていたのだ。だがテイモア監督は画家としてのフリーダにあまり焦点を当てず、フリーダとディエゴとの愛憎劇を中心に描いていく。確かに、この絵を描いていた時にフリーダにはこういうことが起こっていたのねと分かるが、それが「描く」という行為になぜつながるのかが伝わってこない。フリーダは、「私の絵はとても個人的な絵」 と劇中で言う。個人的な絵ならば、何をしてフリーダに筆を取らせしめ続けたのか? それがなければ下手すると浮気癖の治らない男とバイセクシャルな女のただの痴話喧嘩になってしまうでしょう。またもやテイモア監督の映像が上滑りしている感があった。

 一方、「サルマ・ハエックがフリーダ・カーロを熱演している映画」と捉えると、『フリーダ』 はなかなか面白い。だってほら、「オッパイぐるぐる」(『フロム・ダスク・ティル・ドーン』)とか「男の酒場プルプルハウス」(『ワイルド・ワイルド・ウェスト』)とかいう名前の店で胸プルプルさせてたハエックが、まさかこんな熱演をしようとは思いもしないでしょ。一時期ちょうどジェニファー・ロペスとサルマ・ハエックのラテン系女優二人が売れ出した頃があって、某雑誌に「演技力はロペスの方が絶対ある」とあり、僕もそう思っていたんですが、すみませんサルマ。貴女の方がずっと素晴らしかった。彼女はこの映画の実現に6年の歳月をかけたとか。これまでのお色気大作戦まっしぐら!な演技も、この 『フリーダ』 へのステップだったのだ。なるほど。ガッツで役を演じる女優はやっぱり違うのね。

 ただ、始終熱演で切羽詰ってるサルマのフリーダに、ディエゴ役のアルフレッド・モリーナがまた濃い演技してるもんだから、見終わってみるとグッタリ。何もそこまでキュウキュウな話にしなくてもフリーダの生き方は語れるんじゃない? それにアントニオ・バンデラスとアシュリー・ジャッド、出番そんだけかよ! 特にバンデラスの扱いと言ったら安過ぎ。まぁ、既に安い俳優になりつつあるんだが。ちなみに、現在ハリウッドで売り出し中のディエゴ・ルナ(『天国の口、終りの楽園。』)も始めの方に出番アリ。ジェフリー・ラッシュの出番が少なくても見事に印象を残すのは言わずもがな。エドワード・ノートンは・・・いくらサルマの恋人だからって、出なくても良かったんじゃない? 最早フツーの俳優になっちゃったよ。





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