フローズン・リバー FROZEN RIVER

 

directed by Courtney Hunt

cast : Melissa Leo   Misty Upham

Charlie McDermott  Michael O'Keefe

Mark Boone Junior  James Reilly

('10 02 22)

 

 

 2008年のサンダンス映画祭でグランプリを獲得し、低予算のインディペンデント系映画ながら話題となったこの映画。普段あまり小品系を観ない自分としては、主演のメリッサ・レオが去年のオスカーで主演女優賞にノミネートされてなければ観に行かなかったと思うが、こういう映画があるからインディペンデント系も観ておかないと、と思わせるような傑作だった。

 

 舞台は、アメリカとカナダの国境のセント・ローレンス川沿いにあるニューヨーク州最北部の村。クリスマスを前にトレーラーの家賃を夫に持ち逃げされて途方に暮れていたレイは、夫の車を盗んだ先住民モホーク族の女、ライラと出会い、ライラがやっている裏の仕事を意図せずして共謀してしまう。それはアジア人不法移民を車のトランクに乗せ、凍ったセント・ローレンス川("frozen river")をカナダからアメリカへ渡って密入国させるという 「運び屋」 の仕事。2人の子供のためにもお金が必要なレイは、違法と知りながらも多額の報酬がもらえるその仕事に手を染めていく。そしていつしか事態は後戻りできない様相になっていき・・・

 

 劇中のほとんどをノーメイクで演じるメリッサ・レオは、オスカー候補も納得の演技と存在感を見せて素晴らしい。監督のコートニー・ハントは映画の冒頭でタバコを吸う彼女の顔をアップでとらえるのだが、この数秒のアップのシーンだけでレイという女性の生き方、暮らしぶり、内面を語るメリッサ・レオの顔力。そのシワの多い顔があまりにリアルで、一瞬でスクリーンの中に引き込まれた。彼女が演じるレイという女性は、ギャンブル好きの夫に金を持っていかれる子持ちの母という、ありがちな設定の役ではあるのだが、それに説得力を持たせるだけのリアルな存在感を見せるのだ。運び屋の仕事に次第に手を染めていくくだりに母親としての強さをにじませるあたりも上手い。

 

 対するライラを演じるミスティ・アッパムもライラ本人を連れてきたかのような役作りなので、劇中の全ての物語があまりにリアルに感じられた。夜の凍てつくセント・ローレンス川を車で渡っていくサスペンス、レイとライラの間に生まれた友情、レイと息子たち(長男を演じたチャーリー・マクダーモットが良かった)、ライラと彼女の子供の家族のドラマ。どれも本当に実際にセント・ローレンス川の近くで起こっている話のように思えてきて、胸に響くものがある。決してハッピーエンドではないが、かすかに未来への希望が見えるラストもいい。これが長編デビュー作となった監督のコートニー・ハントが脚本も手がけているのだが、ある事件をきっかけにレイとライラの関係が変化していき、それが緊迫した終盤、そしてラストの二人の友情につながっていくあたりや、レイと彼女の息子が口論になった後に親子として心を通わせるシーンなど、演出、脚本ともに秀逸である。

 

 コーエン兄弟の世紀の傑作、『ファーゴ』 もそうだったが、見えるもの全てが白く映る厳しい雪景色の土地でのサスペンス、ドラマは、その景色が既に物語の一部となっていて緊張感を煽る。本作でも凍ったセント・ローレンス川の上を一台の車が静かに横切っていくシーン、雪が積もる夜の町に車を走らせるシーンなど、印象的でスリリングなシーンが多い。それゆえ、春が近くなって雪が消え始めたラストシーンでは微かな希望が見える計算。最後まで上手い。