ハードキャンディ HARD CANDY

 

directed by David Slade

cast : Patrick Wilson  Ellen Page

Sandra Oh  Jennifer Holmes

Gilbert John

('06 08 29)

 

 

 公式サイトの "hard candy" の意味の説明で、3番目に "an erect penis" なんて書いてあるが、決してポルノではないので要注意。ポルノどころか、身の毛もよだつ恐ろしいサスペンスだ。この映画、去年のサンダンス映画祭で公開され、話題が話題を呼んだらしいが、サスペンスとしては面白いのに、最後までキャラクターに感情移入できずに、後味が最悪。こういう映画も珍しいです。

 

 登場人物は、出会い系サイトで知り合った32歳の男、ジェフ(パトリック・ウィルソン)と、14歳の少女、ヘイリー(エレン・ペイジ)の2人。3週間のチャット期間の後、実際に会った2人は、その日にジェフの家に向かう。そしてヘイリーには企みがあった。たった一人の14歳の少女が仕掛けた罠にかかって、精神的、そして肉体的に追い詰められていくジェフ。果たして、「赤ずきんが仕掛けるオオカミへのゲーム」 の結末とは。

 

 舞台はほとんどが家の中で、たった2人でこれだけの心理サスペンスを繰り広げるのだから、それはすごいことだ。展開も息つくヒマなく、目が離せない。そして公開前から話題だった、ヘイリーがジェフのアソコを切り落とすシーン。実際にその手元を映してるワケじゃないのに、うわぁぁ、やめてくれーというジェフの叫びがこっちにも伝わってくるほど生々しくて、観てるこっちも追い詰められそう。これが長編デビューという監督のデヴィッド・スレイドは、きっとオファーが殺到していることでしょう。頭で考えるサスペンスっていうより、五感を直接刺激されるホラーに近いね(次回作は吸血鬼モノみたいだし)。

 

 しかし、話が進むにつれて、段々ヘイリーが偏狂的なイカれた女の子にしか見えなくなってきて、逆にジェフの方がごく普通の男に見えてくる。そして話の焦点は、ヘイリーが疑っている通り、ジェフは果たして少女誘拐監禁事件の犯人なのかというところに絞られていくのだけど、この結末の後味の悪さったらないのだ。表面的には、正義が勝って悪が裁かれるという図式なのに、なぜこうも後味が悪く感じられるのか。しかも最後の方で少しずつ希望らしきものが見えてくる展開もあるだけに、ますます嫌悪感は募る一方。これが監督の確信犯的演出だったとしても、この後味の悪さは久しぶりだ。まぁ、それも演出の上手さ、そして主役2人の上手さゆえなのだが。

 

 主役の2人の演技はすごかった。ヘイリーを演じるエレン・ペイジは、役柄が強烈なので、下手に演じたら目も当てられなかっただろうが、無邪気そうな顔を逆にうまく活かし、年齢からは想像できないような残酷さと、年齢ならでは初心さ(うぶさ)を覗かせて、実年齢は18歳だけど、14歳と言われても納得の上手さを見せる。この映画で演技力が評価されて、来年は主演作が3本も待機中と、注目度も抜群だ。だが、ジェフを演じたパトリック・ウィルソン(『オペラ座の怪人』 の主人公の恋人役)の方に、僕はむしろ感心した。少女に追い詰められて少しずつ壊れていく男を熱演し、じわじわと観てる側の恐怖感を煽っていく。一見好青年にも見えるジェフの正体を曖昧にしながら、強気に出たかと思うと、情けなく命乞い。この映画の緊迫感は、彼の演技のおかげであるところが大きいと思う。映画出演4本目にして、この実力。更に、次回作は 『イン・ザ・ベッドルーム』 のトッド・フィールド監督が描く、倦怠期の2組の夫婦を描いた心理劇。妻役にジェニファー・コネリー、不倫する相手役にケイト・ウィンスレットと、これまた期待できるキャストである。しばらく目が離せない俳優の一人だ。