アメリカの片田舎で暮らす、ごく普通の家族。夫は町でダイナーを営業し、妻は弁護士。2人の子供は元気に育ち、幸せな生活を送ってきた彼らだが、夫の店を襲おうとした強盗を夫が正当防衛で殺したことをきっかけに、怪しい男たちにつきまとわれるようになる。彼らは何者? なぜ夫につきまとう? 彼らの言う通り、夫の過去は殺人者なのか? 家族の中で信頼が揺らぎ始める。
『ヒストリー・オブ・バイオレンス』 は、ある家族に起こった悲劇を描きながら、暴力は何を生み出すか、人が暴力と向き合わなければいけない時、どう向き合うかを描いているが、デヴィッド・クローネンバーグ監督による暴力シーンは、シンプルかつ迫力があり、決して後味はよくなく、この映画のテーマとなるだけの重みがずしりとある。間にグロテスクなシーンをしっかり挟むあたり、ユーモアのセンスもあるし、人間の深層心理をえぐり出すようなホラー映画を撮ってきたクローネンバーグらしいスタイルだ。ユニークで、しかも的確。そもそも、冒頭のモーテルのワンショットだけでも不安感を煽られる。また、暴力シーンだけでなく、夫と妻、そして息子の心理を余計な説明なしで描き、骨太なドラマとしても成立していて、うーん。サム・ライミもそうだけど、決してメジャー路線に走らなかった個性派監督がオーソドックスな映画を撮ると、そのセンスに改めてうなることになる。さすがです。
ヴィゴ・モーテンセンは二面性を持つ主人公に見事になりきり、彼の過去に動揺する妻を演じるマリア・ベロは確かな演技力を発揮しているが。更に素晴らしかったのが、息子役のアシュトン・ホームズだ。映画の中で最もショッキングなシーンでの彼は、モーテンセンやエド・ハリスにひけをとらない存在感だし、彼が同級生に正当防衛の名のもとに暴力を振るうシーンなど、他のどのシーンでも印象的。映画の最後は、その後の家族の物語を考えてしまう余韻を残す終わり方だが、そのラストシーンも、ベロと並んで彼の演技あってこそだ。悪役の迫力たっぷりのハリスや、ウィリアム・ハートのユーモアたっぷりのマフィアも確かに良かったが(オスカー助演男優賞ノミネート)、もっと彼に注目!って感じである。
明確な結末を避けたラストは、この家族のそれからの物語を考えずにはいられない。映画の中で妻に夫を許させるのは簡単だが、クローネンバーグは暴力(というか、殺人)をそんな単純な問題では片付けなかった。暴力を振るうことが人生において重大なこととなるという事実を、しっかり刻みつけている。そして、それを乗り越えようとする愛。シンプルだけど、深い、ずしりと響く物語だ。
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