激しい雨の夜。その豪雨のおかげで足止めを食らって偶然郊外のモーテルに集まった11人。わがままな女優と、その運転手。新婚のカップル。夫婦と幼い息子。凶悪犯と、彼を護送中の刑事。一人の娼婦。そしてモーテルの管理人。何の接点もないはずの彼らが、一人、また一人と殺されていく。そして死体の側には必ずモーテルのルームキーが。犯人は誰なのか? そもそも、この11人は本当に偶然集まったのか? それとも何かの力によって集められたのか?
いわゆる「金田一少年モノ」のようなストーリーだが、これがそうもいかない。何せ、次の殺人はあっと言う間に起こり、登場人物にも観客にも推理するヒマも与えない。殺人シーンが妙にブラックかと思えば、キャラクターの描き方はリアル。ジョーン・キューザックにレイ・リオッタ、アマンダ・ピート、レベッカ・デモーネイなどのクセモノ俳優が集まった密室サスペンスの行方は、3人目、4人目と死者が出るにつれてますます分からなくなり、そして彼らの非の打ち所がない演技によって、ますます誰もが怪しくなってくる。いつもイイ人のジョン・キューザックだが、もしや今回は悪役か? レイ・リオッタが刑事役なんて怪しすぎるけど、そのウラをかいているのか? と、深読みしまくってしまう。そして明かされる、彼ら11人の秘密・・・
映画が始まる前に「この映画を観ていない人に結末を決して言わないで下さい」とメッセージが出るパターンは、最近では『シックス・センス』や『アザーズ』が記憶に新しくて、この手の映画はオチの予想がついてしまうと突然つまらなくなるのだが、『"アイデンティティー"』は違う。先の読めないサスペンスとしてだけでなく、スリラーとしても、ホラーとしても、そしてドラマとしても成り立っているのだ。クセモノ俳優の演技も楽しめるし、遊び心のあるマジメな演出も上手い。そして、オチが明かされてからもまだ『"アイデンティティー"』の世界は続いていく。観る側も『"アイデンティティー"』の世界へ再び入っていく。
ネタばれになってはいけないのでこれ以上書けないのが悔しいんだけど、やっぱりアイディアが良くても、その見せ方が上手くないとダメなんだよね。この映画はそこがすごく上手い。このオチで見せ方が下手だったらブッ飛ばしモンになりかねないのだが、ストーリーの絡め方や演技や演出がアイディアを小手先だけに終わらせていないのだ。監督がメグ・ライアンのダラダラブコメ、『ニューヨークの恋人』のジェームス・マンゴールドだというからちょっと驚く。コンパクトだけど、90分という短さを感じさせない作りは見事。それから、日本版のポスターも見事。映画が終わって劇場を出た後に見て、初めてその意味が分かるのだ。久々に見ごたえのあるサスペンスである。オススメ!
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