アイム・ノット・ゼア I'M NOT THERE

 

directed by Todd Haynes

cast : Christian Bale  Cate Blanchett

Marcus Carl Franklin  Richard Gere

Heath Ledger  Ben Whishaw

Charlotte Gainsbourg  Julianne Moore

Bruce Greenwood  Michelle Williams

('08 05 29)

 

 

 アメリカ音楽界を代表するアーティストであるボブ・ディラン。彼の人生をそれぞれの時代により6人の俳優が演じるという興味深い企画、そして監督が 『エデンより彼方に』 のトッド・ヘインズということで、どんな映画になるんだろうと期待して観に行ったのだが、ボブ・ディランをよく知らない自分にはサッパリ面白くなかった。劇中で語られる様々な物語が実際のディランのエピソードを基にしているらしく、一見交点のないそれぞれの物語が次第に繋がってボブ・ディランという人間を語るという構成になっているのだが、実際のエピソードを知らないと物語自体が退屈で、こんなことならディランの生涯についてあらかじめ予備知識を仕入れておくんだったと後悔した。

 

 ディランを演じる6人の俳優にはユニークなメンツが揃ったが、ほとんどがその実力に相応しい役とは言えず、特に 『パフューム』 での暗い瞳が印象的だったベン・ウィショーの出番がほとんどインタビューに答える姿というのが残念。もっと多彩な演技ができる俳優のはずなのに。6人の中の紅一点でディランを演じたケイト・ブランシェットは、さすが当代一の女優と言われるだけあって難なく男性役を演じているが、こちらの目に映るのはどう見てもケイト・ブランシェットなので違和感あり。その違和感は、60年代半ばのディランと関係が深いイーディをモデルにした女性を演じるミシェル・ウィリアムズとのシーンで浮き彫りになった。男と女の関係の会話の中に生まれるセクシャルな雰囲気が全く感じられないのだ。さすがのブランシェットもそこまでは演じられなかったか。

 

 今は亡きヒース・レジャーが、ディランと彼の妻をモデルにしたエピソードに登場するのだが、彼とシャルロット・ゲンスブールの共演がこの映画の数少ない収穫。二人とも淡々としながらも繊細な演技で、出会って惹かれあい、一緒に過ごし、すれ違っていく恋人同士の何気ない空気を上手く出していた。こういう脆くて壊れそうなキャラクターをセリフではなく、独特の存在感で演じられるレジャーが亡くなってしまったのは本当に惜しい。映画は全く楽しめなかったが、もう数えるほどしか観ることができない彼の演技をスクリーンで観られただけでも、映画館に足を運んだ価値はありました。