インクレディブル・ハルク THE INCREDIBLE HULK

 

directed by Louis Leterrier

cast : Edward Norton  Liv Tyler

William Hurt  Tim Roth

Tim Blake Nelson  Ty Burrell

Christina Cabot  Paul Soles

('08 08 23)

 

 

 アン・リー監督、エリック・バナ主演で映画化されたアメコミの 『ハルク』 が、続編ではなく装い新たに 『インクレディブル・ハルク』 として誕生。前作は観てないので何とも言えないのだが、少なくとも本作は面白い。主人公は放射能の実験の失敗により、怒りで心拍数が上がると緑の巨人ことハルクに変身してしまう体となってしまった科学者のブルース・ダナー。彼の苦悩や寂しさを描きながら、アクションシーンもしっかり楽しめる。同じ名前のブルースが主人公のバットマン新作、『ダークナイト』 より面白かったし見応えありました。

 

 ブルースがハルクに変身する体になってしまう下りをタイトルバックの間で全て片付けてしまうという、思い切った省略的な演出に軽く驚いたが、おかげで展開はスピーディーに。まぁ、それくらいの経緯は詳しく語らなくてもいいっちゃぁいいわけだ。変身したハルクの姿をなかなか見せないで小出しにしてくるところも上手くて、観てるこっちの緊張感と興奮度をジワジワとあげていくルイ・レテリエ監督の演出が功を奏している。ハルクの全貌が映し出される真昼間のアクションシーンがちゃんと山場になってるのね。最初からドカーン、ボカーンだけのアクション監督とは一味違います。ハルクのCGも不自然さはなく、最後の方では怪物が2人も出てきて下手なCGだと白けちゃうところだけど、不思議と違和感なく楽しめた。

 

 そんなクライマックスのアクションシーンでは、盛り上がれば盛り上がるほど映画のトーンは段々哀しさを帯びてくる。ハルクに変身してしまう自分の運命を受け入れたブルースのやりきれなさや悲壮感が漂っているようで、ある程度の爽快感をもって終わる大抵のアメコミ映画にはない、独特の雰囲気なのだ。変身したハルクの顔はブルースを演じるエドワード・ノートンの顔とは似ても似つかないのだが、変身する前のノートンの哀しげな瞳が宿っているようで、ハルクが闘えば闘うほどブルースが背負わなければならない宿命を思って泣けてきてしまった。ていうかノートンはやっぱり上手いなぁ。ブルースの中に渦巻く不安や悲しみ、怒り、恋人への愛情を表情一つで演じていて、彼がいなければこれだけの深みをキャラクターに与えられなかったと思う。そしてラストで見せる不敵な笑み! まるで別人のような表情を見せてくれて、デビュー作にして衝撃的な演技を見せた 『真実の行方』 を思い出した。

 

 こうやって見てみるとノートンやトビー・マグワイア、ロバート・ダウニー・ジュニア然り、マーベルコミック原作の映画化は内面演技ができる俳優が主役を演じるから見応えがあるんだなぁ。そうなると 『ファンタスティック・フォー』 はどうしてあんな映画になっちゃったのかと悔やまれるわけで、まぁ4人も若手演技派を揃えるのは大変かもしれないけど、どうせならF4も続編なんか作らないで装い新たに違うキャストで映像化してくれないでしょうかね。