インソムニア  INSOMNIA


directed by Christopher Nolan

cast :  Al Pacino  Robin Williams
Hilary Swank  Maura Tierney
Martin Donovan  Nicky Katt
Paul Dooley  Jonathan Jackson
Katharine Isabelle
('02 09 27)



 白夜のアラスカ。不眠症(インソムニア)に悩むロサンゼルスから派遣された刑事ドーマーが挑むのは、爪をキレイに切られ、髪を洗われ、全裸でゴミ捨て場に捨てられた女子高生の死体。と来れば、誰だって猟奇殺人モノだろうと思う。違うんだなー、この映画は。話のメインは、アル・パチーノ演じる刑事とロビン・ウィリアムス演じる容疑者の心理戦。それを冷静な目で観察し、真相を暴くヒラリー・スワンク演じる地元刑事。彼女には、こういうクセのない普通の役が似合う。笑うと白い歯が非常に眩しくて気になるが、笑顔がいい。そして、この刑事役はいかにもアルパチな役柄である。となると、残るはロビン・ウィリアムス。

 やっぱりロビンの悪役には無理があった。電話の声だけならいいんだが、いざアルパチと顔を合わせるとアルパチの方が顔的に一癖あるもんだから、いい人顔のロビンは、ここで既に負けてしまう。ロビンとアルパチの演技合戦もイマイチ。それもこれも、アルパチが不眠症で精神的に参ってる演技なんかするからだ。齢62歳、老いてますます一人浮いて見えるアルパチ。不眠症で参れば参るほど、演技に気合が入っているのがありありと伝わってくる。他の人と比べて異様に輪郭がハッキリしてるような気がする程、意味なく演技派オーラを発揮。独自の世界作り上げちゃって、他の役者をよせつけない演技しちゃうのはマズイんじゃないか?

 監督のクリストファー・ノーランは、一斉を風靡した 『メメント』 の監督だ。『メメント』 は確かに良く出来た映画だったが、だからどうしたの、という印象を全面に受けた。観客に訴えるものを何も感じられず、彼の複雑な脚本を見せびらかすための映画にすら思えたが、今回はノルウェーの同名映画のリメイク。前作と違って話の展開に意外性はなく(ラストまで直球勝負!)、登場人物の心理戦が勝負のこの映画でノーラン監督が見せる演出は、凡庸。退屈はしないが、あまりに正統派過ぎて面白みがない。3人の演技派の演技を生かすためにそうしたのか? だが、ドーマー刑事がホテルの部屋で不眠症で滅入るシーンで、心の闇をフラッシュバックで表そうとする映像はピンと来ない。アルパチの苦悩するシワ顔だけが網膜に焼きつく。アルパチの顔が夢に出てくるほうがよっぽど眠れなくなりそうだ。その一方でアラスカの大自然は美しい。むしろ、もっとその大自然を映さんかい! と思ってしまうところが大きな問題点である。この人の演出とはどうも相性が悪いらしい。

 ラストには、余計なキャストは一切省いたオスカー俳優3人による銃撃戦が用意されている。そうとは思えない、この陳腐さ。演技派の無駄遣い。最後まで話に入り込まずに冷静に観てしまった。さらに、最後の最後でヒラリー・スワンクの手のひらがアップになるんだが、それがすごく不恰好に見えたのが気になった。ロビンの悪役に無理があると書いたが、ラストの彼はなかなか必見。ここ一番で冷徹な演技を見せてくれる。アルパチは・・・やっぱり終始「ここ一番」な演技で、そんなに頑張ってたら、そりゃぁ寝不足にも疲れた顔にもなるわさ、と思ってしまうのであった。





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