恋するベーカリー IT'S COMPLICATED

 

directed by Nancy Meyers

cast : Meryl Streep  Alec Baldwin

Steve Martin  John Krasinski

Caitlin Fitzgerald  Hunter Parrish

Zoe Kazan  Lake Bell

Mary Kay Place  Rita Wilson

Alexandra Wentworth  Emjay Anthony

('10 02 21)

 

 

 メリル・ストリープとアレック・ボールドウィンの熟年俳優コンビが、離婚して10年目にして再び関係を持ってしまい、ヨリを戻すか戻さないかという微妙な関係になる元夫婦を演じるロマコメ映画。こんなコンセプトで脚本も書いてメガホンを撮るのが、同じく中年のロマンスをコミカルに描いた 『恋愛適齢期』 で主演のダイアン・キートンを輝かせたナンシー・マイヤーズ監督ということで、製作が発表された時から期待していたのだが、期待通りの楽しさ。ナンシー・マイヤーズの演出は相変わらず冗長で、話のまとめ方がイマイチな感はあるけど、それでもエピソードごとに笑わせては、どこかでそれぞれの役柄に共感を持たせ、女性監督ならではの細やかさと大胆さで中年(というか、いわゆるアラ還世代)カップルの色恋沙汰をコミカルに描く手腕はさすがだ。笑えるところはしっかり笑わせてもらいました。

 

 稀代の 「ザ・演技派」 なメリル・ストリープも、今回はその肩書きを感じさせないナチュラルな演技を肩肘張らずに見せてくれて、若い女と結婚している元夫と酔った勢いでセックスした後に後悔してみたり、女友達の前で 「不倫してるの」 と言いながら喜んでその場で一回転しちゃったり、スティーブ・マーティン演じる建築家と元夫の間で心が揺れたりと、おいおい、何歳のつもりだよと思わずツッコミたくなるほど、これまでにないキュートさを披露。ちょっと新鮮だったのは、結構開けっぴろげにセックスや下ネタをネタにした笑いが多いのだが、それも下品にならずに演じてしまう 「軽さ」 も持っていたことだ。確かにメリルは上手くて好きだけど、こういう 「軽さ」 も出せるとは正直思ってなかったので、また新たな魅力を発見した気分。いやー、今更だけど、本当にどんな役でも演じられる人だなぁ。

 

 そんな今までにないメリルを観てるだけでも楽しいのだが、更に可笑しいのがアレック・ボールドウィン。若い奥さんがいるのに、やっぱり昔の奥さんの方がいい! と、猪突猛進の如くメリルにアプローチ、アタックを繰り返す姿が、これまたカワイくて。見た目は完全にメタボオヤジなのだが(昔のワイルドな面影全くナシ!)、それを武器にしておいしいところを見事に持っていく潔さ。おかげでスティーブ・マーティンの影がかなり薄くなってしまいました。スティーブ、『花嫁のパパ』 シリーズのよしみでマイヤーズ作品に出たのかもしれないが、彼の魅力を活かしてるとは言い難かったなぁ。ワキで良かったのはジョン・クラシンスキーで、メリルとアレックに挟まれてイイ味を出していた。映画の後半では「もっと彼の出番を!」と思ってました。

 

 メリルがアレックとの不倫を思い切って楽しもうと決めた後に、ホテルの部屋でシャワーを浴びた後、アレックの前でバスローブをゆっくりとはだけるシーンがあるのだが、いやー、いくらメリルでもそれは無理あるんじゃない?無謀なんじゃない?と思いながら観ていたら、さすが大女優、こんなシーンでも 「上手さ」 で納得させてしまうのであった。肩から上しか映ってないのに(誰もが心配するであろうドスコイな体型を映し出すわけにはいかない)、まるで彼女の若い頃を思い出させるような雰囲気を作り出してセクシーとまで思わせてしまう、この演技力。メリル・ストリープにしろ、『恋愛適齢期』 のダイアン・キートンにしろ、そういう演技を要求されるような役をこの年代で演じられるというのは、女優として嬉しいことだろうなぁ。もちろん、彼女たちにそれだけの実力があるからなのだが、例え実力があっても一昔前だったら考えられなかったことだと思う。そういう意味でナンシー・マイヤーズ監督の功績は大きいし、こういうジャンル(中年カップルのシリアスにならないロマコメ)を手がける人はなかなかいなさそうなので、是非ともこのジャンルであと何作か作っていただきたい。