エディット・ピアフ 愛の讃歌 LA MÔME

 

directed by Andrew Dominik

cast : Brad Pitt  Casey Affleck

Sam Rockwell  Sam Shepard

Paul Schneider  Jeremy Renner

Garret Dillahunt  Mary-Louise Parker

('08 01 13)

 

 

 1800年代、アメリカ西部開拓時代に名を馳せた無法者、ジェシー・ジェームズ。彼を暗殺した男ロバート・フォードが、ジェシーに会ってから彼を暗殺するまでを描いたこの映画。どっちも全然知らない歴史上の人物で正直よく分からない話なんだが、そもそもこの映画を観に行ったのは、ケイシー・アフレックが来たるアカデミー賞にノミネートされるのがほぼ確実という状態だったので、それならば観ておこうというのが動機であり、あまり映画そのものには興味がなかったのだ(予告編を観ても映画館で観たいとは思わなかった)。案の定、観始めてからしばらくは全然面白くなく、ひたすらゆっくり進むストーリーにも演技にも興味ナシだったのだが、いつの間にか登場人物たちの間に生まれた緊張感が物語を支配し始め、観終わってみると、まさかこんなに深い余韻に浸ることになろうとは、という感じで見応えたっぷり。ここまで映画の中で印象が変わる映画も珍しい。

 

 原題にもあるように、無法者で強盗や殺人を繰り返すも人々には人気があったジェシー・ジェームズが、仲間だったのに彼を裏切った臆病者のロバート・フォードに殺されたというのが一般的なイメージのようだが、この映画ではそう分かりやすく2人の関係を描いていない。「英雄」 と 「卑怯者」、「善」 と 「悪」 と言った分かりやすいキャラクターは与えず、一言では説明できない、暗殺に至るまでの2人の内面をじっくり描いて、何ともいえない不思議な心理ドラマになっている。そしてジェシーを殺したボブに残ったものは何だったのか。映画は独特の味わいを残しながら終わる。

 

 そう言ったドラマを支えるの役者たちの演技も予想以上に良かった。ブラッド・ピットはいつもの分かりやすい演技を封印して、カリスマ性と狂気を孕んだジェシーを静かに熱演。ボブの兄を演じるサム・ロックウェルもさすがの上手さを見せる。そしてケイシー・アフレックは評判通りの良さだった。彼の演技も映画同様、最初の方は 「こんなんで絶賛されてるの?」 と思いながら観ていたのだが、物語が進むにつれて彼が演じるロバート・フォードの内面にぐいぐい引き込まれていった。ジェシーに憧れる粋がったただの若造かと思いきや、彼に対して抱く複雑な感情を見せ、時に大胆な行動に出る不気味さ。お兄ちゃんのベンアフには出せない繊細さを持ちながら、無表情の中に見せる憂いある眼差しの暗さが、役の内面を物語っている。これまではワキ役でちょっと顔を見せる程度の出番が多かったけど、お兄ちゃんが監督デビューで絶賛されている 『GONE BABY GONE』 でも主役を演じてたりしていて、躍進著しい年になりそう。

 

 背景となる雪景色や稲穂の揺れる草原が美しく、また、美しいだけでなく登場人物誰もが持っている寂しさを映し出しているような佇まいの風景で、映像が物語の一部となっている。と思って観ていたら、最後に出てきた撮影監督の名前はコーエン兄弟映画の常連、ロジャー・ディーキンスだった。なるほど、素晴らしいわけだ。今年はオスカー本命と名高い 『ノーカントリー』 の撮影も手がけていて、是非初のオスカー像を手にして欲しい。