"fanatic"(狂信的な、熱狂的な)の語源となった、スペインの女王フアナ。原題は 『狂女フアナ』 だ。歴史的背景に無知な人間なので、基本的設定やら人物相関図がサッパリだったんですが、とりあえず彼女が狂女フアナと言われたのは、政略結婚で結ばれた夫、フェリペへの熱烈かつ執拗な愛ゆえである。出会うや否やベッドインするお二人。カラダの立派な彼に夢中になるフアナ。部屋だろうと食卓だろうと、子供産んですぐだろうとも彼女がすぐにスカートをめくってフェリペを誘うのは、タダのヤリたがりの安っぽい娘にしか見えない。そして、夫役の俳優が加藤鷹みたいなので、安さ爆発大セールだ。そんな二人を見てても全然興味がわかない。
だが、夫の浮気が発覚して(気づくの遅い)フアナが嫉妬に駆られるあたりから、フアナのキャラクターが俄然面白くなっていく。夫のベッドの残り香をかぐシーンや、狩りと言いながら娼館へ通う夫を城で待つシーンなど、その微妙な表情が活き活きしてくるのだ。夫を愛するあまり、無意識のうちに嫉妬が生きがい状態なんである。そして、幼ななじみの元ボーイフレンドを使って夫に嫉妬させて喜んだりと、次第に言動がおかしくなっていくフアナ。「狂っている」 というより、段々哀れに思えてくる。見せ方がうまい。
面白かったのは、フェリペの側近達が、夫の浮気相手探しに必死のフアナのことを狂ってると言って女王の座から引きずりおろそうとするのだが、ショックでそれすら頭に入ってこないフアナが、 「女王の座を追われれば王のベッドには別の女が入るのです」 と言われて俄然やる気を出す下り。うまい! その手があったか! そして議会前に国民を味方につけ、王女として大演説をふるうシーン。この映画の山場である。演じるピラール・ロペス・デ・アジャラの独壇場だ。彼女がフアナの様々な面を演じ分けているので、展開がやや散漫でも飽きないんである。この映画の後にはアメリカに進出して、デ・ニーロやハーヴェイ・カイテル、ガブリエル・バーンら、豪華な顔ぶれと共演予定の彼女。ペネロペ・クルスに続く、スペインの国際女優の誕生なるか?
とは言っても、やっぱり歴史的背景の説明をハショりすぎである。フアナがどれだけの女王だったのかはスペイン国民にとっては常識なのかもしれないが、映画の中では女王らしいことを全然してないので、というか、王である夫も何もしてないので、どこぞのワガママ豪遊貴族夫婦みたいだ。『マリー・アントワネットの首飾り』 もそうだったが、こういう題材は、その時代の動きも描かないと単純なコスチューム・ドロドロ劇になってしまう。そこらへん、『エリザベス』 はよく出来ていた傑作だった。当時の政策も含めて、うまくエンターテインメントに仕上がっていたと思う(策士家を演じるジェフリー・ラッシュが効いていた)。また、ああいう大河メロドラマ映画の傑作できないかなー。結構好きなジャンルなのに。
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