キック・アス KICK-ASS

 

directed by Matthew Vaughn

cast : Aaron Johnson  Chloë Grace Moretz

Nicolas Cage  Mark Strong

Christopher Mintz-Plasse  Stu Riley

Clark Duke  Evan Peters

Lyndsy Fonseca  Garrett M. Brown

Omari Hardwick  Sophie Wu

('11 01 08)

 

 

 アメリカのコミックで根強い人気を誇るスパイダーマンやバットマン。そんなスーパーヒーローに憧れるコミックオタクの高校生が、特殊能力も体力もなにもないのに、自分で変身用スーツを買ってスーパーヒーローになってしまった!

 

 というプロットと予告編から、なんちゃってスーパーヒーローを温かく応援しながらも、ディティールで笑える 『ギャラクシー・クエスト』 的なコメディなのかと思っていたのだが、確かに、主人公のデイヴが緑のダサダサのコスチュームを身にまとって "キック・アス" を名乗り、ボコボコにされながらも戦う姿がYoutubeで公開されて人気者になるまでは予想通りだったものの、キック・アスを助けに来たヒット・ガールが出てきたあたりから何だか様子がおかしくなってくる。これ、監督タランティーノだったっけ? っていうくらい、派手に刺して切って殺しまくるヒット・ガール。うわー。キック・アスはギャグだったけど、ヒット・ガールとビッグ・ダディはマジだよ。マジで殺しまくってるよ。しかも、スーパーヒーローへの憧れだけでキック・アスになったデイヴと違って、ヒット・ガールとビッグ・ダディには悲しい過去があるのだ。これ、コメディじゃないんじゃない? 結構シリアスな話じゃない? と思ったところで、新キャラのレッド・ミストが登場。こんなに話がごちゃごちゃになっちゃって、最後はどうなるの?

 

 と不安になっていたのだが、終盤に近付いてくるとストーリーに俄然エンジンがかかって面白くなってくる。ビッグ・ダディとヒット・ガールの父娘の絆にほろりとしてから、ヒット・ガールが暴れまくるラストのアクションシーンのハチャメチャさ、痛快さに惚れて笑って(ここで流れるBGMがナイス!)、最終兵器はそれかよ! という無茶苦茶なラストではスパイダーマンのパロディでオチをつけるという上手さ。そうか! だからレッド・ミストが出てきたのか! いいねぇ。こういうの好き好き。思わずニンマリだ。

 

 キック・アスことデイヴを演じたアーロン・ジョンソンをはじめ、キャストはみんなイイ味を出していたけれど、とにかく最高なのがヒット・ガール役のクロエ・グレース・モレッツだ。スラング使いまくりで大人顔負けのアクションシーンをカッコよくキメたと思ったら、マスクを脱いだ素顔のシーンでは、ちょっと強がった普通の女の子という、このギャップの見事な演じ分け。すごい子役がいたもんだと思ってフィルモグラフィーを調べてみたら、『(500)日のサマー』 で出番は少ないながらも印象的だった、主人公が落ち込んだ時にかけつけて励ましてくれる主人公の妹役の子だった。あの頃からシーン・スティーラー的な上手さがあったけれど、こんな女優(子役と表現するのは失礼な気がするくらいだ)に成長するとは。

 

 ニコラス・ケイジもワキ役ながら、久々にいい味を出していた。マジメなんだけど、どこかおかしくて笑えるというケイジ独特のセンスが、この映画自体にピッタリだ。ビッグ・ダディとして登場する前に鏡の前で目の周りを黒く塗ってメイクするシーンの、マジメさとおかしさ。最期のシーンでバットマンもどきの仮面を脱いだシーンのマジメさと、メイクが崩れた顔のおかしさ。莫大な借金返済のせいで形振り構わずハリウッドの娯楽大作に出まくっているケイジだが、こういう役でこそ本来の持ち味が出せる役者なので、嬉しい配役だった。たまにこういう役をやるから、映画界で見捨てられないで済むんだろうな。

 

 マーク・ストロングは、さすがに悪役やり過ぎ。監督のマシュー・ヴォーンと 『スターダスト』 で一緒に仕事をした仲なので起用されたのかもしれないが、『ワールド・オブ・ライズ』、『シャーロック・ホームズ』、『ロビン・フッド』 と、出る映画出る映画、同じ顔で悪役やってるのでもう飽きてきた。まだ今回は、多少コミカルな部分がある悪役だったので悪くなかったけど。ちなみに、マシュー・ヴォーン監督の次回作は、『X−メン』 のプロフェッサーXとマグニートの若き日を描いたシリーズ最新作という、これまた期待の高まる企画。そして案の定、『キック・アス』 は続編製作が決定し、続編の監督もマシュー・ヴォーン。やっぱり次はキック・アスとレッド・ミストが戦うのか!? そして最後は仲間になって巨大な敵を倒すのか!? どんな設定になるのか今から楽しみだ。