ラースと、その彼女 LARS AND THE REAL GIRL

 

directed by Craig Gillespie

cast : Ryan Gosling  Emily Mortimer

Paul Schneider  Patricia Clarkson

Kelli Garner  R. D. Reid

Nancy Beatty  Karen Robinson

('09 01 04)

 

 

 確かこの映画の存在を知ったのは、2007年末の賞レースでライアン・ゴズリングの名前が挙がった時で、アカデミー賞でも脚本賞にノミネートされていたので観たいなぁと思っていたのだが、なかなか公開されず、このキャストだと日本公開は難しいかと思って諦めていたところ、1年経って忘れた頃にようやく公開が決定。ゴスリングの前作、『ハーフ・ネルソン』 がDVDスルーになってしまっただけに、これは嬉しい劇場公開だ。ということで早速観に行ったのだが、期待通り、感想を言葉にするのももったいないくらい独特の味わいのある良作だった(じゃぁ書くなよって感じですが)。

 

 ゴズリング演じる主人公のラースは、内気で彼女もいない27歳。いつも一人で孤独な彼を心配する兄夫婦のところにラースがガールフレンドと紹介して連れてきたのは、何と等身大の人形のリアルドールだった・・・・という奇抜なアイディアで始まるストーリーは、初めはコミカルなタッチで進んでいくが、次第に町の人々を巻き込んで可笑しくも悲しい、けれど温かい展開を見せてくれる。そう。この、ユーモアに溢れて温かいんだけど、ちょっと哀しさもあり、リアルなんだけどファンタジーでもある、さじ加減が上手いのだ。観ようによっては社会で生きていくことの難しさや、人との付き合いの中で精神を病んでいく人の多い現代社会の縮図を描いているとも取れるけれど、それがラースという一人の青年の成長物語の中に散りばめられているので、深刻過ぎず、心地よく観てられる。この年のオスカーのオリジナル脚本賞は、旋風を巻き起こして話題になった 『JUNO/ジュノ』 に持っていかれたけど、こっちの方が上手さとユニークさでは上だね。

 

 ライアン・ゴズリングが上手いのはもう当然なので今更語ることでもないのだが、彼ほど微妙な演技ができる俳優がラースを演じないと、この映画自体が絵空事で終わってしまって成り立たなかったと思う。パトリシア・クラークソン演じる医師と対話していくうちに心の中に抱えたトラウマが表出していくシーンや、ビアンカ(ラースが恋に落ちる人形の名前ね)の存在が彼の中で少しずつ変わっていく下りのニュアンスとか、自然なんだけど上手くって、ラースそのものって感じ。こういう役が演じられる若手となると、他にはジェイク・ギレンホールくらいだろうか。一昔前のトビー・マグワイアにも演じてみてもらいたい気がする。ラースの兄を演じるポール・シュナイダーと、その妻を演じるエミリー・モーティマーも自然な演技でワキを固めてくれる。特にモーティマーは今まで全然いい女優だと思ったことがなかったのだが、一気に好きな女優になった。他の町の人々もみんなイイ味を出していて、アメリカの片田舎を舞台にした小品系ならではの温かさがスクリーンから溢れている。こういうテイスト、好きだなぁ。