まっすぐな話には、まっすぐなキャストとまっすぐな監督が合う。エドワード・ズウィック監督もトム・クルーズも直球勝負の人だ。渡辺謙もトムクルにひけをとらないまっすぐな存在感を見せる。面白みはないが、映画としての見ごたえは十分。
時は明治、西洋化の波が押し寄せる日本にやって来たオールグレン大尉(トム・クルーズ)。日本の軍隊の近代化のための教官として雇われた彼は、近代化に慣れない兵士たちを率いて戦いに臨み、捕虜として捕まってしまう。そこは西洋化に毒されることなく、侍としての己を捨てない人々の村。その村で時を過ごし、渡辺謙演じる武士の勝元や、村人達との交流の中でオールグレンは侍の精神に、そして今の自分になくなってしまった戦いの精神に惹かれて行く。
渡辺謙がイイのは評判通り。彼が演じる勝元のキャラクターは映画そのものを支えている。物語の必然性としては不自然なまでに英語を上手くあやつり、日本人としては実に37年ぶりに演技部門のオスカーにノミネートだ。一方トムの方は、最初の酒におぼれて自暴自棄気味な演技が激情型でわざとらしく、またかと思ってしまったが、勝元に会ってからは違和感がない。まるで、オールグレンのキャラクターと共にトムの演技も、サムライ・スピリットの 「静」 に感化されたよう。
勝元の村が和風ホビット庄にしか見えないとか(ロケ地はNZ)、真田広之の出番が意外に少ないなとか、いや、そもそも勝元の英語が流暢過ぎとか、ツッコミどころはいくらでもあります。が、話の基本的なところは押さえてあるし、ミスマッチなキャストもなし。何より、合戦のシーンの迫力が見事だ。日本の大河ドラマに慣れている身としては段違いの面白さで、忍者バトルのシーンだけでも氾濫するハリウッド・アクションの水準を易々越えている。銃と刀、歩兵と騎馬兵という戦いも効いていて、是非是非、日本の大河ドラマもハリウッドで撮ってほしいものだ。そして、合戦シーンの 「動」 と、登場人物の丁寧な心理描写による 「静」 の対比も効いている。泣き所もツボをおさえてあって、緩急つけた演出にハマりました。最後10分ほどの展開がいくらなんでも安易すぎないかと思うのだが、というか、なくてもいいんじゃないの的な展開なので(天皇役の中村七之助がイマイチ過ぎる)、そこが大きくマイナス。小雪は演技と言えるほどの演技をしていないが、あの独特の雰囲気で採用されたのか?
正直言って製作発表当時は、いや、予告編を目にした公開直前まで、トムクルが長髪で日本の侍になるってどーなのよとタカをくくっていたし、誰が観たがるんだろうと思っていたんだけど、フタを開けてみれば日本で大ヒット。そうかぁ。あの予告編でみんな観る気になのかぁ。それとも日本人がハリウッド映画出演、しかも主演がトムクル・ザ・大スターということで足が劇場に向かうのかな。まぁ、面白かったから嬉しい誤算だけど。
|