硫黄島からの手紙 LETTERS FROM IWO JIMA

 

directed by Clint Eastwood

cast : Kazunari Ninomiya  Ken Watanabe

Ryo Kase  Tsuyoshi Ihara

Shido Nakamura  Yuki Matsuzaki

Hiroshi Watanabe  Takumi Bandok

Nobumasa Sakagami  Takashi Yamaguchi

Nae  Lucas Elliott

('06 12 09)

 

 

 第二次世界大戦中の硫黄島での日米の戦いを、クリント・イーストウッドがアメリカと日本の両者それぞれの視点から描いた 「硫黄島2部作」。アメリカ側から描いた 『父親たちの星条旗』 が戦争そのものだけでなく、当時のアメリカ社会の流れや政治的側面も含めて描いていたのに対し、『硫黄島からの手紙』 は戦場を生きた兵士達を描いた純粋な戦争映画になっていて、ちょっと詰め込み過ぎの感がある 『父親たち〜』 よりも入り込んで観れた。特に後半、硫黄島での戦いが始まってからの見応えは十分。ただ、2週間前に 『父親たち〜』 を観たばかりだったので、戦争シーンを見慣れてしまっていたというか、ちょっと食傷気味の状態で観に行ったのは失敗だったかもしれない。1ヶ月は間隔を空けた方が良かったかな。

 

 とは言っても、イーストウッドの演出の主眼は戦争シーンそのものより、日本軍兵士の葛藤を描くことにあるようなので、それで映画の本質が見劣りしたわけではない。その点で物足りなかったのが、主人公(でいいのか?)の栗林中将の描き方だ。以前イーストウッドがインタビューで、「『父親たちの星条旗』 を撮っているうちに、硫黄島でアメリカ軍を1ヶ月も苦しめた栗林中将がどういう人物だったのかに興味を持ち、『硫黄島からの手紙』 を作ろうと思った」 と話していたが、その割には栗林中将の話は掘り下げ不足で、その人物像に共感や感銘を覚えることがあまりなかった(そこらへんが渡辺謙の演技力の限界なのかもしれない)。むしろ、二宮和也と加瀬亮が演じる若き兵士の内面を描くことで、戦争の虚しさ、理不尽さが浮き彫りになっていたと思う。そしてこの二人の演技が、他のキャストと比べて抜きん出て説得力があった。特に二宮は、徴兵されて兵士になった元パン屋の一庶民という、ごくありふれた役を自然に、かつヴィヴィッドに演じている。彼の存在がなければ 『硫黄島からの手紙』 という映画が核の部分で成立しない、そんな演技を見せてくれた。これだけ作品としても話題としてもスケールの大きい映画の中で、最初から最後まで期待以上に素晴らしいとは。比べるのも失礼な話だが、同じジャニーズ所属で、かつ同時期に主演映画が公開されている、何を演じても同じ演技の木村拓哉とは大違いですね。

 

 だが、二宮と加瀬が良かった分、他のキャストのイマイチ感が強かった。特に、その他大勢の兵士役のちょっとしたセリフ回しが、日本語で観てるこちらとしてはあまりに不自然なシーンが多く、ところどころで白けまくり。中でも、中村師童演じる伊藤中尉が栗林の命令を無視して単独行動を取ろうとするシーン。師童の演技もひどかったが(最初から最後まで、何じゃそりゃって感じ)、彼を置いて戦場から引き返そうとする部下たちの演技の適当っぷりが輪をかけてひどく、この映画のワーストシーンでした。

 

 まぁ、日本語圏じゃない人ならこういう違和感は感じないだろうから、海外でなら結構高い評価を得られるかもしれない。かくいう僕にも、「我々は国のためではなく友のために戦った」 という感傷的な回想録に傾いた 『父親たちの星条旗』 より、日本軍の確固たる意志と、その中に存在する生きる希望を描いた本作の方が、力強く映り、響くものが多かった。イーストウッドの骨太な演出も、『父親たち〜』 より 『硫黄島〜』 のストーリーの方に合っていたと思う。ニコチャンマークはに近いということで。