大いなる陰謀 LIONS FOR LAMBS

 

directed by Robert Redford

cast : Tom Cruise  Meryl Streep

Robert Redford  Andrew Garfield

Michael Peña  Derek Luke

Peter Berg  Kevin Dunn

('08 04 26)

 

 

 どういうつもりでこの邦題をつけたのか。確かに政治サスペンスらしいタイトルになっていて宣伝しやすいかもしれないが、内容は全く違う。題材はアメリカのテロとの戦いだが、サスペンスというよりもむしろドラマとしての要素が強い映画だ。まぁ、そうでもしないと宣伝しづらい内容の映画ではあるのだが。

 

 映画は3つのストーリーが同時に語られる形で進む。大学教授(ロバート・レッドフォード)と、将来に悩んで自分を見失った教え子との面接。アフガニスタンの前線で新たに下された作戦を展開する兵士たち。そしてその作戦を考案した共和党の上院議員(トム・クルーズ)と、彼が国民の信頼を得るために情報をリークして独占記事を書かせようと呼び出した女性ジャーナリスト(メリル・ストリープ)とのやり取り。それぞれ単独では見応えあるドラマとして成り立っていて、特にクルーズとストリープの演技合戦とも言えるやり取りの緊迫感は、さすがベテラン2人を揃えただけあり、密室劇だというのに目が離せない。

 

 けど、この3つのストーリーから紡ぎだされるメッセージは何かと言うと、正直何も感じなかった。いや、監督のレッドフォードは安易なメッセージを伝えることなく、今この瞬間にも進行しているイラク戦争に対して冷静な立場を取りながら問題提起をしようとしているのかもしれない。映画の中ではっきりとした結末を避けているのもその一端と言えよう。それはそれでアリだと思うが、あまり映画的な面白さはない。例えばガス・ヴァン・サントが 『エレファント』 で犯罪を起こした少年、その被害者となった生徒たち、ならなかった生徒たちの日常を中立的な視点から淡々と切り取って描くだけで彼らの内面を浮かび上がらせたような、スクリーンを前に体験する視覚的、聴覚的な効果ゆえのものが、この映画にはほとんどないのだ。何かを感じるとすれば、それは非常に直接的なセリフからのみで、まるでそのセリフを正当化させるためにドラマが存在しているかのよう。『リバー・ランズ・スルー・イット』 や 『クイズ・ショウ』 での映画的な人物描写が素晴らしかったレッドフォードだけに、テレビドラマでも成立しそうな演出に終わってしまったのが残念だ。結局観終わって残るのは、3大スターや若手有望俳優共演の豪華な映画だったね、程度。この題材でそれはまずいでしょう。

 

 とは言っても、メリル・ストリープが好きな僕としては、最近は何かしら教訓的な立場の役を演じることが多かった彼女が、社会的に決して強くない、その年代の等身大のキャリア女性を演じているのが新鮮で楽しめた。この人は本当にどんな役でもこなせてしまうんだなぁと、観る度に感嘆せずにはいられない。そもそもストリープ(とクルーズ)ほどの存在感と説得力がなければ、この映画自体が成立しなかっただろうし。また、クルーズ演じる上院議員が考えた 「机上の作戦」 の犠牲となってしまう兵士を演じるデレク・ルークとマイケル・ペニャの2人も、理想と信念を持って戦争に志願する学生という役を、理想論だけで行動する無鉄砲な若者という人物像にならずに演じていて、最近躍進著しいのも頷ける演技だ。御年70歳になったレッドフォードは、こんなにシワが増えたのになぜか人生の重みをシワから感じない不思議。若い頃にハンサムだったり綺麗だったりしも、年輪を感じさせる年の取り方をしないと俳優としてはイマイチになるんだなぁ。