マッチポイント MATCH POINT

 

directed by Woody Allen

cast : Jonathan Rhys Meyers  Scarlett Johansson

Emily Mortimer  Matthew Goode

Brian Cox  Penelope Wilton

Margaret Tyzack  Miranda Raison

Steve Pemberton  James Nesbitt

Ewn Bremner  Rupert Penry-Jones

('06 10 08)

 

 

 ここ10年以上、ひたすらコメディに傾倒していた(そして着々と面白くなくなってきていた)ウディ・アレンが、久々にそのジャンルを離れ、しかもホームタウンのNYまで離れてロンドンで撮影した 『マッチポイント』 は、シニカルでスリリングな、恋愛絡みの心理サスペンスだ。評判通りの快作で、こういう映画がたまにあるから、映画を観るのはやめれれない。ウディ、あなたの映画を観続けて良かったです。

 

 「2006年、今が旬な女優」 の一人、スカーレット・ヨハンソンが演じるのは、自分の婚約者の妹の婚約者クリスと関係を持ってしまうノラ。「男はみんな私を放っておかないの」 なんて言っちゃう小悪魔的な前半では、表情といい、体つきといい、存在自体に官能的なオーラをまとわせていて、イギリスの上流階級にお邪魔しちゃったアメリカ人女優の卵っていう役がピッタリだ。かと思うと、クリスに放っておかれると不安になって当り散らすような普通の女の子的な後半でも上手いんだから、アレンもきっとイチコロでしょう。次回作ではヨハンソンを主役にして脚本を書いたっていうし。

 

 そしてヨハンソン以上にピッタリなのが、クリスを演じるジョナサン・リース・マイヤースだ。金持ち一家の娘と婚約、その父親が経営する会社で働いて出世街道を歩き始め、好運で順風満帆な人生だというのに、婚約者の兄の婚約者ノラに手を出して関係を続けちゃうという、これだけ聞くとただの浮気男の役に、独特の危うさと脆さを持たせていて見事にハマっている。クリスがノラに初めて会った時、ノラの腰に手を当てながら、「君は官能的な唇をしてるね」 と言うシーンのマイヤースの危うさはどうだ。このシーンだけで、これからクリスがノラに溺れていくのが目に見えるよう。もしくは美術館でノラと再会し、電話番号を教えるように小声で言うシーンに漂う危険な香り。こんな風に迫られたら、ヨハンソンも参っちゃうでしょう。後半、クリスが優柔不断に妻とノラの間を行き来するダメ男になってからも、そんな危うさを常に隠し持っていて最後まで目が離せない。陰のあるブルーの瞳の奥で何を考えているのか読めないクールさ、冷淡さを持ちながら、いつ感情が爆発するか分からない不安定さを持っているマイヤースならではのニュアンスが、『マッチポイント』 の心理サスペンスな要素の鍵になっているのだ。ほとんど出ずっぱりの彼だが、おかげで前日に観た 『ザ・センチネル 陰謀の星条旗』 よりもハラハラしてしまった。『タイタス』 や 『楽園をください』 で演じたようなキレ系の役をいつまでも演じてるわけにはいかないけど、そうか。こういう使い道があるじゃない。『ベッカムに恋して』 のマイヤースを観て、「感情に溢れて凶暴」 と感じてキャスティングしたというウディ。さすがです。

 

 プロットだけだとありきたりの愛憎劇なんだけど、この主演2人を含めた俳優たちの上手さ、そしてアレン監督の軽妙な演出と脚本が効いて、『マッチポイント』 は大人の洒落たサスペンスに仕上がった。そして意表を突くラスト。コレ、ここ数年でベスト3に入るエンディングだね。あっ、と驚かせておいて、最後には冒頭のモノローグの意図が見えてくる。脚本、ニクい! 劇中で流れるオペラの数々も、アレンならではの味付けで嬉しい。どうでもいいが、クリスの婚約者を演じるエミリー・モーティマーは、兄役のマシュー・グードより7つも年上だった。道理でおばさん顔の妹だ。