未来は今 THE HUDSUCKER PROXY


directed by Joel Coen

writing credits : Ethan & Joel Coen

cast :  Tim Robbins  Paul Newman
Jennifer Jason Leigh  Charles Durning
John Mahoney  Jim True
Bill Cobbs  Bruce Campbell
Harry Bugin  John Seitz
Joe Grifasi
('01 10 19)



 『ギルバート・グレイプ』と同じく、『未来は今』は、ビデオで観終わった瞬間に、生涯のベスト1入り間違いなし!と思った数少ない作品の一つだ。その時、こんなレビューを書いている。


 なんかもう、素晴らしすぎて感極まるってこのこと?みたいな。こんな映画初めて。コーエン兄弟の5作目、『未来は今』を見終わった私は、こんなイイ気持ちにさせてくれる映画があったのか、なんて柄にもなく思ってしまった。

 原題の『THE HUDSUCKER PROXY』とは、「ハッドサッカーの操り人形」という意味で、頭の悪い、けれども一途に純真な田舎出の青年が、ハッドサッカー社の上層部に社長に祭り上げられて、いいように操られていく話だ。本人は大出世のつもりではりきるが、まわりはそんなこと関係ない。唯一の見方は秘書(それもニセモノ)で、勿論、彼女とのロマンスもあり。何てことない話なんだけど、随所にちりばめられたユーモア感覚、テンポの良さ、配役の妙による見事な演技陣、ズマ抜けて卓越した(かぶってるな)映像センスで、心の底から楽しませてくれる。

 何といってもすごいのは、ティム・ロビンス扮する主人公がフラフープを提案して、それが認可されてから街で流行りだすまでの映像だ。フラフープの製造、経理部での売り値の決定、名前の考案、値下がりするフラフープ、目の前に突然現われた輪っかを回し出す子供、それをビックリ仰天に見つめる下校途中の子供たち。まさに見入るとはこのことか。思わず泣いてしまったよ、お兄さんは。他にも、ティム・バートンを思わせる冒頭のNYの風景や、リアルなんだけど可笑しい(ここ重要!)ビルからの落下シーン、などなど挙げたらきりがないのね。しょっぱな、社長(チャールズ・ダーニング)が飛び降りるシーン、面白かったぁ。全然悲壮感漂わさずに笑わせてくれるの、コーエン・ブラザーズは。思うに、彼らの魅力って、どんなにクサイ台詞も、どんなに悲しいシーンでも、必ずユーモアでくるんで見せてくれるってとこじゃないかな。クサイ台詞、クサイ場面を、さあ、ここが見せ場ですっ、とばかりに演出する監督や俳優も、ハマればそれはそれで感動するが、彼らに限ってそんなことはいたしません。ラストの驚きのオチも、そんなぁ、そんなのありかよ、と、こちらが思ってると、登場人物の一人(ビル・コッブス。素晴らしい!)が、ルール違反だけど仕方ないだろ?と監督たちの代弁までしてくれちゃったりする。いいなぁ、このウィット。当然脚本(コーエン・ブラザーズ、そしてライミ!)も素晴らしく、伏線っていうか何ていうか、こう・・・・、一言で言っちゃうと巧いんだよね。

 ティム・ロビンスやポール・ニューマンをはじめとする出演者たちも素晴らしい。特に素晴らしいのは、勝ち気に仕事をこなすピューリチツァー賞女記者を演じるジェニファー・ジェーソン・リーだ。他にも、ジョン・マホーニー、チャールズ・ダーニングと隅から隅まで上手い配役で、さらに、クラブの歌手役でどこかで見た顔が出てきたと思ったらピーター・ギャラガー。さらにさらに、物語も終盤だというのに、出てくるじゃないの、ブシェミ! んもうっ,たまらないっ!

 そんなこんなで、贅沢にいろんな要素を詰め込んだ『未来は今』は、最後に微笑ましいラストを迎える、シアワセ三昧にさせてくれる映画だったのだ。そうそう、この映画は音楽(の使い方)も素晴らしい。「剣の舞」が始まった時にゃぁもう、たまってた涙がうわぁ〜、って溢れちゃいましたよ。


 まぁ、そんな感じだ。もうちょっとあらすじをしっかり書くと(ていうかパクってるんだけど、)

 NYに出て来た青年ノーヴィル(T・ロビンス)は、大企業ハッドサッカー社の郵便係になった。ところが社長(C・ダーニング)が突然自殺し、会社乗っ取りを目論む重役マスバーガー(P・ニューマン)から後任に任命される。でくの坊を社長にして暴落した株を買い占める魂胆だ。陰謀を感じた敏腕記者エイミー(J・J・リー)はノーヴィルの秘書として潜入するが、次第に彼の純朴さにひかれていく。一方、ノーヴィルのアイディア"フラフープ"は大ヒット。マスバーガーの反撃は? ノーヴィルとエイミーの恋の行方は? 

 ちなみに、やっぱりコーエン兄弟なので、絶対劇場で観るべき。冒頭の雪がしんしんと降るNYや、ティム・ロビンスのワケのわからない夢なんかは(このシーンは、全編遊び放題の『ビッグ・リボウスキ』に通じるものがある)、ビデオじゃ堪能できないでしょう。

 『未来は今』は、コーエン兄弟がカンヌ3章制覇というワケのわからない(つまりスゴイってこと)偉業を達成した『バートン・フィンク』の次の作品である。コーエン兄弟の作品の中で最も評判が悪い。(悪いっつっても「コーエン兄弟にしては」ってぐらい) きっとハリウッド的要素の入った脚本だからかな。いいじゃないか、ハリウッド。しかも、これは最近のハリウッドじゃなくて、古き良きハリウッド的感覚(よく知らないけど)。ていうか、いいの。観てハッピーになれるんだから。もう大好き☆



終始マヌケ面で絶妙に面白いティム・ロビンス。









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