モーターサイクル・ダイアリーズ
              DIARIOS DE MOTOCICLETA


directed by Walter Salles

cast :  Gael Garcia Bernal
Rodrigo De la Serna
Mia Maestro  Mercedes Moran
Jean Pierre Noher  Lucas Oro
Marina Glezer  Sofia Bertolotto
('04 10 17)



 南米が生んだ伝説の革命家、チェ・ゲバラこと、エルネスト・ゲバラ・デ・ラ・セルナ。医学生であった若き日の彼は、友人のアルベルトと共に、一台のおんぼろバイクに乗って、ラテンアメリカ探検の旅に出る。その距離10,000キロの旅は、二人にとって、後に大きな転機となる。

 「キューバ革命を成功させた人」 以上のことをゲバラについて知らない人間ですが、プロローグにもあるように、これは偉業を成した人間の物語ではなく、まだ革命家を志す前の一人の青年の物語なので、そこらへんのことは知らなくても大丈夫。むしろ、若き二人のロードムービーとして観れるし、それとして十分に映画として成立している。一つ一つのエピソードは面白いし、映画全体の構成も上手い。行く先々での出会う人々とは、本当にその場で出会ってるようで、彼らと一緒に南アメリカを旅している気分になる。そのリアルさが面白い。だが、『モーターサイクル・ダイアリーズ』 が良い意味で「作られた」映画っぽくならないのは、二人の、この旅を捉える視点が嘘っぽくないからだと思う。

 旅の最後にゲバラは、この旅の中で何かが起こった、その答えを見つけたい、と言う。その後、彼は革命家としての人生を歩み始めるわけだが、映画は、その何かを具体的に提示しない。ハンセン病の療養施設での人々との出会いか、アタカマ砂漠で会った夫婦の顔か、それとも、クスコやリマでの人々との出会いか。旅が終わった時点でのゲバラには、その何かが分からない。だが、この旅にはその後の彼を変えていく力があった、ということが観ていて伝わる。ゲバラが道中に感じたことは、その場では彼自身にも整理がつかない、曖昧なものだったんじゃないだろうか。後に革命家になることがわかってるんだったら、そんな人生のお膳立てのような映画にすることもできただろうけど、その、自分でもよく分からない曖昧な感覚を映し出せている点で、とてもリアルで、誠実なロードムービーになっていると思う。同じガエル・ガルシア・ベルナルが主演した『天国の口、終りの楽園。』 もそうだったが(趣向は全然違うけど)、観終った後に、彼らがこの旅をどう捉えていくのか、彼らのその後の人生がどう広がっていくのか、想像を巡らせたくなる映画だ。

 ゲバラを演じる、今や超売れっ子のラテン俳優のガエル・ガルシア・ベルナルは、こういう役が似合う。その時にしかないような輝きを出せる俳優だ。かと思うと、サン・パブロの療養施設を後にする彼の、人々をしっかり見据えた表情は、この旅で彼が成長したことを大きく感じさせ、ハッとさせる。『サイダーハウス・ルール』 のトビー・マグワイアもそうだったが、こういう確固たる表情で演技ができる俳優は、意外に少ないように思う。貴重な存在だ。

 実際にゲバラが辿った行程を、二度にわたって実際に回って撮影場所を決めたというが、そのカメラが映し出す南アメリカの自然が美しい。ラストで佇む、ゲバラの親友アルベルト本人の姿は、不意に、彼らの人生の重みを感じさせた。アルベルトを演じるロドリゴ・デ・ラ・セルナは、ゲバラ本人のはとこだとか。そして、ゲバラ、よく喘息で死ななかったな。あんな発作見たら、即座に点滴入れちゃうけど。





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