MUD マッド MUD

 

directed by Jeff Nichols

cast : Matthew MacConaughey  Tye Sheridan

Jacob Lofland  Reese Witherspoon

Sam Shepard  Michael Shannon

Ray McKinnon  Sarah Paulson

Paul Sparks  Joe Don Baker

('14 03 10)

 

 

 アーカンソー州の川沿いの町を舞台に、ワケありで追手から身を隠している謎の男マッドと、彼と奇妙な友情で結ばれる2人の少年の数日間を描いた物語。タイトルロールのマッドをマシュー・マコノヒーが演じ、マッドとの交流で大人へと成長していく少年エリスを 『ツリー・オブ・ライフ』 のタイ・シェリダンが演じる。監督は傑作 『テイク・シェルター』 のジェフ・ニコルズ。

 

 現代版 『スタンド・バイ・ミー』 との評もあったようだが、確かにその通り。謎めいた過去を持つマッドが2人の少年の助けを借りて、愛するジュニパー(リース・ウィザースプーン)と逃避行に出ようとするというサスペンス的なプロットがメインにあるのだが、そのプロットを追っているうちに、いつしか少年が大人へと成長し始める瞬間を捉えた物語へとなっていくのだ。そしてその瞬間がとても鮮やかに、でも自然と描かれている。そう言えば 『テイク・シェルター』 も、悪夢に悩まされてシェルターを掘り続ける主人公の行く末を追うスーパーナチュラルラルな物語かと思いきや、最も鮮烈に描かれていたのは家族の絆の強さだった。どちらの作品も、ジェフ・ニコルズ監督の地味だが非凡な演出と脚本が光る。

 

 ここ数年、それまでとは全く違うタイプのキャラクターを演じてきたマシュー・マコノヒーが、危険な匂いがしながらも脆さと優しさのある、はみ出し者のマッドを独特の存在感で演じていて素晴らしい。正直、去年観た 『マジック・マイク』 や 『ペーパーボーイ』 での熱演は上滑りしてる感が否めなくてイマイチ好きになれなかったのだが、本作の演技を観て初めて彼のことをいい俳優だと思った。来月のアカデミー賞では主演男優賞を本命視されているが、そこまでの評価を得るようになったのも納得だ。実質的な主役とも言えるエリスを演じたタイ・シェリダンも、自分ではもう子供じゃないつもりなんだけど、大人の世界のことはまだ理解できないこの年代特有の内面を、表情少ないながらもその碧い瞳だけで演じていて見事。イマイチな俳優が演じると映画全体をぶち壊しかねない役柄なだけに、彼の功績は大きいと思う。

 

 この2人の他にも、エリスの親友を演じるジェイコブ・ロフランド(本作が俳優デビュー)や、登場するだけでスクリーンが引き締まるサム・シェパードなど、誰もがそのキャラクターとしてスクリーンの中に存在していて、ジェフ・ニコルズ監督が俳優の演技に全幅の信頼を寄せて演出しているのがよく分かる。なんせ、これまでロマコメ以外でいいと思ったことがなかったリース・ウィザースプーンでさえもいい味を出しているのだ。どーでもいいことだが、2000年代に 「ロマコメと言えばこの人」 の筆頭だったマコノヒーとウィザースプーンが、こんな良質な作品で良質な演技を見せてくれる日が来ようとはという感じで、観ていて感慨深いものがありました。

 

 『テイク・シェルター』 でもそうだったが、アメリカの片田舎の生活や大自然を切り取った風景が美しい。物語の終盤近くで一瞬だけ映る、地平線を染める夕焼けのワンショットが印象的だった。