息子の部屋  LA STANZA DEL FIGLIO


directed by Nanni Moretti

cast :  Nanni Moretti  Laura Morante
Jasmine Trinca  Giuseppe Sanfelice
Silvio Orlando  Claudia Della Seta
Stefano Accorsi  Sofia Vigliar
Alessandro Infusini
('02 01 17)



 試写会で観たのだが、有楽町のよみうりホール。『グリーンマイル』の試写会で行って、つまんないのに暑くて長くて、いいことなかった思い出のホールだ。『息子の部屋』は、丸の内ピカデリーなどで拡大公開されている。だが、どちらかと言うと単館公開で静かに楽しみたい映画だ。予告編で「泣けそう!」と思って観に行った人たちは肩透かしを食らうだろう。さっ、と横を通る風のような映画だった。

 精神科医のジョバンニは、美しい妻パオラと、娘のイレーネ、息子のアンドレアの家族に囲まれ、幸せに暮らしている。その幸せに突然降りかかる不幸、アンドレアの死。ダイビングに行ったアンドレアは、事故で帰らぬ人となってしまった。残された家族は、アンドレアのガールフレンドからの手紙をきっかけに、アンドレアの死を乗り越えていく。

 感動を安く狙うドラマだったら、家族みんなで立ち直ろうという展開になるのが見え見えになる。まぁそれでも僕は泣いてしまうのでしょうが。けど、『息子の部屋』では家族それぞれが自分の中でアンドレアの死に向き合おうとする。それぞれのドアの向こうで。そして、アンドレアにもドアの向こうの世界があった。ガールフレンドが訪ねて持ってきた写真には、彼の部屋での、家族が見たことがないアンドレアの笑顔があったのである。

 とにかく、わざとらしさが全くない映画なので好感が持てた。ブライアン・イーノの「By the river」が予告編で流れすぎていて、いざ劇中で流れてくると物語に噛み合ってないように聞こえてしまうのがもったいない気がしたが、すぅっ、と話に入っていける(気づくと入っている)ので、あっさりとしたラストが心地よい。

 恐らく『息子の部屋』は、単に僕がミニシアターで味わいたいというだけではなく、ミニシアターで公開した方がヒットが見込めたと思う。観客の映画の印象は、劇場の規模に結構左右されやすい。この味わいを拡大公開系に望む人はあまりいない気がするのだが・・・ 事実、「眠かったー」「なんか淡々としててつまらなかったー」という声も試写の後でちらほら聞こえてきたし。やっぱ期待ってのは大きすぎない方がいいんですよ。特にこういう映画の場合はね。そうでもないと、そんじょそこらの感動じゃ「ふーん。こんなもんか」で終わっちゃうからさ。

 きっと人間の日常ってのは、この映画みたいなちょっとしたことで変わっていくものなんだと思う。過剰な感動路線に慣れきっていると、そのことを忘れがちになって、感情が麻痺していく人たちが増えていくんだろうか。「いい映画だった」と言ってくれる人がたくさんいたら嬉しい。





back