女はみんな生きている CHAOS


directed by Coline Serreau

cast :  Catherine Frot  Rachida Brakni
Vincent Lindon  Aurelien Wiik
Line Renaud  Ivan Franek
Michel Lagueyrie  Wojtek Pszoniak
Chloe Lambert  Marie Denarnaud
('03 11 23)



 まず邦題がイイ。原題の『CHAOS』からよく考え出してくれました。強いオンナの映画にピッタリの邦題じゃないの。そして秀逸なオープニング。余所行きの準備をしている一人の女と一人の男。二人は夫婦だ。慌しく用意が出来た二人はドアを開けて背を向けながらエレベーターに乗りこむ。このなんてことないシークエンスのテンポの良さだけで、予告編で眠りかけた頭がスッと目覚めていく。既に最初の数分だけでこれからの2時間が楽しめるに違いないことが予測できるのだ。こういう映画、最近なかったなぁ。

 そこそこ裕福で平凡な主婦エレーヌ(カトリーヌ・フロ)は、ちょっとした偶然で謎の娼婦ノエミ(ラシダ・ブラクニ)と関わるようになる。主婦の日常に何となく違和感のあったエレーヌは、突然冒険心に目覚め始め、おかげでエレーヌのダメ亭主(ヴァンサン・ラドン)とダメ息子(オレリアン・ウィイク)は放り出されて家は散らかり放題。ノエミを追う怪しい男たちは一体何者? エレーヌの家庭はどうなっちゃうの?

 という展開自体はさほど目新しくないけれど、キャラクターが隅々まで生き生きとしてて(バカ息子やその彼女、そして病院の看護婦でさえも!)観ててとても楽しいのだ。主演二人の力強さも観てて痛快。ノエミの過去が明らかになるシーンでは(ココ、かなり長いのに面白い)、うーん、ここまで強いから生き延びれたのねと、ノンフィクションでもなんでもないのに妙に納得してしまう。もちろん、一見どーでもいい人にまで、そして一見ダメなだけの男達にもしっかりキャラクターがある。

 ノエミの過去が明らかになってからの下りも面白いが、冒頭、エレーヌの家庭の事情をテンポよく、無駄なダイアログ抜きで、演技と間だけでうまく説明する演出が素晴らしい。サスペンスタッチの展開の間にちょっと挟むとぼけたシーンもいい。コリーヌ・セロー監督の人間への洞察力がとても深い証拠だ。それに応える演技陣もまた素晴らしくて、特にカトリーヌ・フロとヴァンサン・ラドンの夫婦の可笑しさと言ったら最高! フロなんて、歩いてるだけでなんか可笑しいもの。怪しい男たちの後をバレバレになりそうに尾行している彼女の姿は、さりげなく爆笑モノだ。絶妙な間で笑いを誘い、存在自体を笑いに出来るその芸達者ぶりにはただただ笑うばかりです。

 程よい洗練さと程よいバタバタさ加減で小気味よく進み、力強く生きるオンナたちの姿に痛快さを感じる2時間弱だけど、これはオススメ! 理屈ぬきで気持ち良くなれるし、それでいてキャラクターもしっかりしているんだから言うことなしです。既にハリウッドでのリメイクがほぼ決定して、監督はコリーヌ・セロー自身という話なのだが、キャストの名にメリル・ストリープが! もちろんエレーヌ役なんだと思うが、ちょっと違うような気もするし、ちょっと観てみたい気も。男達の後ろを怪訝な顔でつけまわすメリルの顔が、今からでも想像できそうだわ。頑張れ中年まっしぐら!





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