パニック・ルーム  PANIC ROOM


directed by David Fincher

cast :  Jodie Foster  Kristen Stewart
Forest Whitaker  Jared Leto
Dwight Yoakam  Patrick Bauchau
Ann Magnuson  Ian Buchanan
Paul Schulze  Mel Rodriguez
Andrew Kevin Walker
('02 05 19)



 『パニック・ルーム』は、当初ニコール・キッドマンが主演する予定であった。しかし、『ムーラン・ルージュ』の撮影で怪我をした彼女はやむなく降板し、代わりに、同じくデヴィッド・フィンチャー監督の『ゲーム』でショーン・ペンが演じた役(主人公の弟)を当初演じる予定だったジョディ・フォスターが登板。結果、キッドマンは『アザーズ』で怯え、フォスターは『パニック・ルーム』で怯えることとなる。キッドマンの『パニック・ルーム』も見てみたかったが、キッドマンにはクラシカルな雰囲気が似合うし、フォスターには現代女性が似合う。ナイスな結果だ。

 フォスター演じるメグは、離婚したばかりに、一人娘を連れてマンハッタンの街に4階建ての家を買う。その家にある「パニック・ルーム」。部屋には、家中を監視するカメラのモニターがあり、ドアは鋼鉄でびくともせず、センサーで開け閉め。外部からの侵入を決して許さない部屋だ。そして引っ越したその夜、3人組の強盗が押し入り、2人はパニック・ルームに閉じこもることになる。

 というわけで、親娘と3人組強盗の一晩の攻防戦が『パニック・ルーム』の全てだ。結論から言うと楽しめたけど、正直言って、この一晩で2時間見せるには脚本に限界がある。だって先が読めるし、そもそも強盗3人組がアホっぽい。ごひいきジャレッド・レトが3人の中で輪をかけてアホなのが残念。そしてラストは、何じゃそれー状態。にもかかわらず、2時間バッチリ楽しめてしまったのは、主人公がジョディ・フォスターであり、監督がデヴィッド・フィンチャーであるからだ。鍵穴を通る自在のカメラワークや、壁の上から二つの空間を同時に移すカット、そして随所に訪れる山場の凝り具合(特に携帯電話を取るシークエンスの大胆さに拍手)などなど、フィンチャー印な演出に大興奮。

 ジョディが上手いのはわかっていたし、強い女を演じられる女優は貴重である。『アザーズ』のキッドマンもそうだが、二人とも子供を愛し、守る母親役であり、怯えながらも強さ、したたかさを感じさせる。そうでないと、バカなホラーと変わらなくなる。怯えるだけなら冬彦さん相手にひたすらわななく賀来千賀子だってできるのだ。そして、そのジョディと渡り合う、娘のサラを演じるクリステン・スチュアートは見事。パニック・サスペンスを表情で演じられる彼女も上手いが、納得したのは、親娘の微妙な関係を彼女が演じられていること。両親が離婚したばかりで、母親も父親も愛しているが、女が出来た父親に捨てられたも同然で傷ついた母親と暮らしているサラは、自分への母親の多少過剰な愛情を鬱陶しくいながらも、11歳なりに母親を守っていたし、また守ってもらいたいのだ。そんな関係もさらりと演じられてるあたり、いい味出している。

 ところで、デヴィッド・フィンチャーの映画と言えばタイトルバック。『セブン』の冒頭、小刻みに揺れるキャストの名前で言いようのない不安感を抱いた人も多いと思う。今回は、映画が始まるとスクリーンにニューヨークの街並みが映し出される。と思うと、文字が突然のようにビルの壁面に浮かんでいるのだ。ただ浮かんでいるのではない。ビルの壁面に合わせて斜めになっている。って、こんな書き方でイメージ湧くかな。是非劇場に行ってその目で見て欲しいんだけど、ごく普通のニューヨークの街が、それだけで、異様な何かを感じさせてくる。かなり見逃せないタイトルバックだ。

 フィンチャー監督も、そろそろ妙に手馴れた演出になってきそうだなー、と観た後に危惧を覚えてしまった。今回みたいな映画作りが出来て、作品をヒットさせられることは証明できたし、フィンチャーらしさは勿論残ってるんだけど、『ゲーム』とか『ファイト・クラブ』で見せてくれた、いわゆる「クセモノ」感が段々薄れてくるんじゃないかなぁ、なんて。というのも、次回作が『ミッション・インッポシブル3』なわけよ。デヴィッド・フィンチャーにトム・クルーズ。似合わないよー。むしろ、トム・クルーズの演出が似合う監督なんかにはなって欲しくないなぁ。



こっから先はネタバレ注意



 娘のサラは糖尿病という設定だ。サラがつけている腕時計のようなものは自動血糖測定器のようなんだけど、俺は途中まで全然気づきませんでした。つまり、サラが低血糖になって発作を起こしてしまうのでは!?ということなんである。劇中、サラの血糖は確か50くらいまで下がっていた。ここで、『パニック・ルーム』のホームページでの文章を引用しよう(ちなみに、このHPでStoryというコンテンツを読むと脚本が半分以上バレるので読まない方が身のため)。

「一定時間内にインシュリンの注射をしないと命が危ない状況に陥ってしまう」

 ちょっと待ったぁー!血糖値50でインシュリン打ったらますます血糖下がってでますます危なくなるだろー! なんせ糖尿病内科を回ってる時に観てるんですからね。その証拠に、サラの血糖が低いことわかると、母親メグはパニック・ルームの中で糖分が入っている食べ物を探し出す。低血糖のときは砂糖を舐めるのが一番なのだ。それにしても、低血糖で何を皮下注射してたんだろう。先生に聞いたら、低血糖で皮下注射することはないってさ。おやー。これは脚本の大ポカかー?





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