ロード・トゥ・パーディション  ROAD TO PERDITION


directed by Sam Mendes

cast :  Tom Hanks  Paul Newman
Jude Law  Jennifer Jason Leigh
Stanley Tucci  Daniel Craig
Tyler Hoechlin  Liam Aiken
Ciaran Hinds  Dylan Baker
David Darlow  Doug Spinuzza
('02 10 18)



 映画を観る楽しみには色々あるが、『ロード・トゥ・パーディション』は、これぞ映画、と言い切るにふさわしい。トーマス・ニューマンの重厚な音楽。コンラッド・L・ホールの撮影による圧倒的な映像の美しさ(雪の上に倒れた自転車でさえも美しく映る)。セリフでは多くを語らないサム・メンデスの、骨太にして繊細な演出。今回は「うまみ」を見せないで演技するトム・ハンクスに、ポール・ニューマンの存在感。映画とは職人芸であることを感じずにはいられない。いい映画は他にもたくさんあるが、プロによるプロの作品とはこのこと。その証拠に、銃撃戦一つを取っても安っぽくならないどころか、登場人物の生き様の重みすら感じさせる。そして、多くの映画で陳腐になりがちな父と子の物語。ズシリと響く。

 時はアル・カポネが牛耳っていた1930年代。父親のいないマイケル・サリヴァン(トム・ハンクス)の職業は、いわゆる殺し屋。自分を我が子同然のように育ててきた街のボス、ジョン・ルーニー(ポール・ニューマン)が信頼する殺し屋だ。そして、マイケルの12歳の息子(息子も名前がマイケルなので、字幕ではマイクとしていた)が、今まで知らなかったその父親の姿を目撃してしまったことから歯車が狂い出す。妻ともう一人の息子をジョンの息子のコナーに殺されたマイケル。マイケルとコナーの間で苦悩するジョン。そして二人のマイケル。ハンクスは、『フォレスト・ガンプ』 以降、妙に板についてしまっていた嘘っぽい善人演技からようやく解放されたよう。『フィラディルフィア』 以来の静かな熱演である。ニューマンに至っては、彼の演技について語るのがおこがましく思えてくるほど、素晴らしい(関係ないが、ニューマンとジェニファー・ジェイソン・リーの組み合わせが僕の大好きな 『未来は今』 を思い起こさせるのが嬉しい)。誰もが注目するに違いないのは、ほぼ主役に近いマイケルの息子役を演じるタイラー・ホークリンだ。大作への出演がこれが初めての彼が見せる演技は、本物。他の出演者にひけをとらない、瞳の演技を見せる。特に、マイケルが家に帰ってきたときに暗い食卓で1人待つ彼の顔には身震いした(瞳と言えば、コナー役のダニエル・クレイグは目の彫りが深い!そのためにこの役に起用されたのか?と勘繰ってしまった。それほどに印象深いシーンがある)。

 映画は息子マイケルのモノローグで始まり、モノローグで終わる(そう言えば 『アメリカン・ビューティー』 もそうだったな)。ラストのモノローグが始まった時、余計なことを・・・と一瞬思ったが、いや、『ロード・トゥ・パーディション』 はこのモノローグなくしては終われない。そう感じた。ありふれた父の愛を受け止め、生きていこうとする息子の姿。ラストシーンではそれが最も端的に、そして象徴的に表れる。マイケルのセリフとともに、この映画の6週間を振り返り、その結末を噛みしめると、自分の中に溜まっているとは全く知らなかった涙があふれてきた。

 トム・ハンクスは、この映画をサイレント映画のようだと語っている。確かにその通りだし、それが最大の魅力でもある。サム・メンデス、お見事。その中でジュード・ロウが演じるのは、死人を撮るのが好きな新聞記者マグワイアで、物語の中盤から登場する。ポスターでハンクスとニューマンと顔を並べてる割には出番は少ない。奇特な役どころに何とか救われているが、『A.I.』のロボット役の延長上でしかない小手先の演技で、明らかに彼だけ力不足だ。彼の役にもっと深みがあれば、さらに良かったのではと思うのは欲を出しすぎだろうか。





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