ニュースの天才 SHATTERED GLASS


directed by Billy Ray

cast :  Hayden Christensen  Chloe Sevigny
Peter Sarsgaard  Steve Zahn
Hank Azaria  Rosario Dawson
Melanie Lynskey  Mark Blum
('04 12 05)



 アメリカで最も権威ある政治雑誌、ニュー・リパブリック誌の人気ジャーナリスト、スティーブン・グラス。『ニュースの天才』 は、彼が書いたスクープ記事の半数近くが、彼が捏造したものだったというショッキングな実話をベースにした映画だ。ジャーナリズムの何たるかを熱く問いかけるシリアスな社会派映画かと思ったら、全然違った。ある一つの記事をきっかけにグラスが失脚していくのを心理的に追いかける、小品映画だった。それはそれで楽しめるので、いい意味で期待を裏切られた。

 原題の 『SHATTERED GLASS』 は、「ボロボロになったグラス」 の意味。その名の通り、記事を捏造したんじゃないかと編集長や他誌の記者に疑われるようになると、次第にグラスは精神的に不安定になって憔悴してくる。この描き方が面白い。グラスを、確信犯的に記事を捏造した男ではなく、「僕は悪くない」「編集長なのにどうして僕を守ってくれないんだ」 とまで言ってしまう、罪の意識に欠けた人間として描いているのだ。そんなグラスを、ヘイデン・クリステンセンが絶妙ないやらしさで演じているので、彼が転落していく様がとてもスリリング。こういう曖昧な役柄を、よく演じたなぁ。『海辺の家』 の彼も確かに良かったけど、正直、ここまで演技ができるとはね。アナキンのイメージが強くなりそうだけど、主役を演じたのはまだ3本目。これからもっともっと評価されるはずだ。

 意図せずしてグラスを追い詰めていくことになる編集長役のピーター・サースガードは、去年の賞レースを賑わせただけあって、正義に燃える男を、熱血漢に見えずにさりげなく演じていて違和感がない。今年のオスカーレースに参戦しそうな『KINSEY』 にも出ているので、要チェック。クロエ・セヴィニーは普通の役がこんなにハマるとは思わなかった。前編集長を演じるハンク・アザリアや、芽の出ないライターのメラニー・リンスキー(ピーター・ジャクソンの 『乙女の祈り』 でデビュー)も、隅々までいい演技をしていて、映画の質を上げている。

 それにしても、ここまで嘘八百を並べた記事を書いても、なかなか気づかれないってことにビックリだ。そして、そこまで嘘八百を書き続けたグラスにもビックリ。そこんとこの心理にもう一歩踏み込んでたら、と思わないでもないが、そうなると映画全体のトーンが変わってきて、また別の映画になりそう。これはこれで面白かったし、少なくともヘイデン・クリステンセンの作品選びが間違ってないことは証明されたはず。ちょっと、『エピソード3』 は観てみようかなって気になります。





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