サイン  SIGNS


directed by M. Night Shyamalan

cast :  Mel Gibson  Joaquin Phoenix
Rory Culkin  Abigail Breslin
Cherry Jones  Patricia Kalember
M. Night Shyamalan
('02 10 01)



 『サイン』 は信仰を失った男の話である。

 あれ? ミステリーサークルが出てくるサスペンスじゃないの? まぁ、確かにそうとも言う。でも、そう言わない方がいい。ミステリーサークルものと思って観に行くと、下手すれば 「つまらない」 と言い出しかねない。ミステリーサークルは一見この映画のメインテーマのように見えるが(冒頭の展開の早さ!びっくり)、実はメル・ギブソン扮する、妻を事故で亡くした元牧師の物語を語るための要素に過ぎないのだ。そして、『シックス・センス』 や 『アンブレイカブル』 でもそうだったように、M・ナイト・シャマラン監督は真正面から元牧師の物語を取り上げない。超常現象的題材をメインのように扱い、観客を驚かし、怖がらせる。その緻密で計算高い演出に騙され、釘付けになった観客は、最後で元牧師の物語に癒される。上手い。シャマラン監督は、超常現象で個人のドラマを紡ぎ出すという、新たなジャンルを作り上げているようだ。

 ホアキン・フェニックスが上手いのは、もう当然としよう。彼が演じるのは、主人公の元牧師の弟。珍しくコミカルなシーンもあるが、シャマラン監督は映画の後半の山場、普通ならギブソンをスクリーンに映すであろうシーンで、フェニックスの顔をアップで撮り続けるという技に出た。「俳優には一世一代の名演を期待する」というシャマラン監督の、フェニックスに対する期待と絶対の信頼が成せる技である。対するメルギブは、全く好きでない顔の俳優の一人なんだけど、彼の映画を観ているといつしか引き込まれちゃうんだなぁ(特に 『身代金』 がそうだった)。もしかすると、スターの中で彼みたいな俳優が実力派スターと言えるのかもしれない。そして、この映画のメルギブは今まで観たメルギブの中で一番! 今までの彼は、映画の中で少なからずスター・メルギブの要素を要求されていたと思う。アクションをこなし、颯爽と活躍する主人公的なメルギブだ。だが、『サイン』 では俳優・メルギブの姿を存分に堪能できる。そして、役の重みは違えど、ホアキンとメルギブは対等な俳優として映る。本人にとっても、しばらくなかった体験だったのではないだろうか。

 今回はアッと驚くラストはなし。ひょっとすると物足りない感を覚えるかも。けれど、その裏にあるもう一つの物語に目を向ければドラマティックなラストが待っている。クライマックスのフラッシュバックの大胆な使い方。監督の自信を垣間見る。そして、サイン(原題 : signs)とは何なのか? ミステリーサークルが世界の破滅のサインなのか? それとも他にサインがあるのか?

 ジェームズ・ニュートン・ハワードの音楽には脱帽。予告編でも流れていたあのテーマを、全編で使い、映画全体を予測不可能な雰囲気で包んでいる。なおかつ、その不気味なテーマを最後には感動的に料理。是非アカデミー作曲賞を差し上げたい。それにしても、ネタバレしないでレビュー書くの疲れる映画だ。色々書きたいのに、伏線が上手いもんだから各シーンの説明のしようがない。そう言えば、この映画や、『アザーズ』、 『パニック・ルーム』と、今年は家族による少人数空間限定サスペンスが絶好調。できる監督は違うね、やっぱり。ていうか、シャマランの演技が上手いのにもびっくり(中盤で出てくる獣医がシャマラン監督)。この人、本当に驚かすの好きだな。





back