『マトリックス』 のブッ飛んだ映像で度肝を抜いてくれたウォシャウスキー兄弟がまたやってくれた。今度は俳優以外をほとんどフルCGで作ったカーレースの世界。あまりにCGばかりだと生身の人間の痛みがなくて普通は白けてしまうものだが、さすがウォシャウスキー兄弟、やることが違います。もう冒頭のレースシーンから既にマックスに近いこの興奮! ただリアルであることを目指したCGとは違った、CGだからこそ可能なハチャメチャな映像が楽しくて楽しくて、これは年に数回出会えるか出会えないかの興奮度です。あー、こんなエキサイティングな気持ちを味わえるから映画はやめられないのよー
あのタランティーノも大好きという日本のアニメ、『マッハGoGoGo』 が原作のこの映画だが、きっとウォシャウスキー兄弟はこのアニメが好きで好きでしょうがなかったんだろうなーっていうのが、原作アニメを全く知らない僕でもよく分かる。フルCGで作られた映像は実写とアニメの境界ギリギリで作られていて、これぞアニメの正しい映像化と言わんばかりだし、劇中に盛り上がったところで日本版アニメの主題歌のフレーズを流したりするあたり、よっぽどアニメ版にハマってないとやらないでしょう。タランティーノの映画もそうだけど、映画を作るのが楽しくてしょうがない人たちが思い入れを込めた作品を観るのって、本当にワクワクする。
もちろん、そんな思い入れを考えなくても十分楽しめる映画だ。僕が映画を観てて心の底からワクワクしてくるのは、『恋におちたシェイクスピア』 や 『ギャラクシー・クエスト』 みたいに、好きで好きでしょうがないことに熱中していると輝いている人たちが出てくる映画なのだが、『スピード・レーサー』 もまさにそれ。レースで天才的な走りを見せる主人公のスピードは、「俺にはレースしかない」 と言い切ってしまうほどレースのことしか頭の中になく、小さい頃に教科書の隅っこに書いたパラパラマンガはもちろんカーレースという 「レースバカ」 である。そんなスピードがレースですごい走りを見せ、彼を応援する家族が泣き喜んで、観衆は熱狂し、実況中継は我を忘れて大興奮の喋り。もう、これだけで観てるこっちの目頭が熱くなっちゃいます。映画を作ってる方も、スクリーンの中のファミリーや観客も、映画を観てるこっちも、みんなでスピードを応援しているこの一体感。映画を観る興奮ってコレだよなーと思わずにはいられません。そして、こういう興奮を与えてくれる映画には小難しい話なんてなくてヨシ。分かりやすいスポ根みたいな直球のストーリーで全然OK。途中で突然アクション映画になったり、クライマックスのレースでスピード以外全員が敵になっちゃうという無茶な設定も、作る側の遊び心の成せる業なのだ。
スピード役にエミール・ハーシュ、そのガールフレンドにクリスティーナ・リッチという、この手の映画にしては通なキャスティングがいい。2人とも大作で主役を張るような美男美女のスターじゃないし、話題になるほど新人の若手でもないけれど、フルCGに負けないフレッシュな存在感を発揮していて、この映画にピッタリだ。スピードの両親にジョン・グッドマンとスーザン・サランドンというカップルも素敵だし(こんなにハシャいで喜んでるスーザン・サランドン、初めて観たよ)、他のキャストもそれぞれいい味を出していて、CGが全盛になればなるほど俳優の力量が問われるというのが僕のスタンスに相応しい面々なのが嬉しい限りです。
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