ターミナル THE TERMINAL


directed by Steven Spielberg

cast :  Tom Hanks  Catherine Zeta-Jones
Stanley Tucci  Chi McBride
Diego Luna  Barry Shabaka Henley
Kumar Pallana  Zoe Saldana
('04 12 19)



 それまではそうでもなかったのに、『マイノリティ・リポート』 以降、突然僕の中で株が上がったスピルバーグの新作である。ちょっと贔屓目で観てしまうのは勘弁してもらうとして、主人公は、アメリカへの飛行機に乗ってる間に祖国で革命が起こり、空港に降りたはいいものの、ビザが取り消されて空港から出られなくなった男、ビクター・ナボルスキー。「法の隙間に落ちた」 彼の、空港での生活で起こるエピソードをなぞる 『ターミナル』 では、政治とか、人種とか、そう言った分かりやすいテーマを高らかに謳いあげたりしない。ナボルスキーの、とてもパーソナルな物語だ。それを紡ぎ出すスピルバーグの彼の軽妙な演出、確実な演技を見せる俳優達、ジョン・ウィリアムズの音楽。『キャッチ・ミー・イフ・ユー・キャン』 と同じことを言ってしまうようだが、『ターミナル』 もやっぱり、プロの仕事を観させてもらいましたという気分になる映画だ。そして、深く心に何かを引きずるわけではないけれど、とてもいい気分で映画館にいられて、とてもいい気分で映画館を出られる。やっぱり、最近のスピルバーグ、好きです。

 ナボルスキーを演じるトム・ハンクスは、コメディとシリアスの絶妙なブレンドがさすが。必死でカゴを集めてコインを稼ぐ姿は、おかしみと悲しみを、ふと感じずにはいられない演技だ。キャサリン・ゼタ・ジョーンズが演じるのは、ナボルスキーとイイ感じになるフライトアテンダントのアメリア。彼女を 『シカゴ』 と 『ターミナル』 でしか観たことがない人は、もしかしたら彼女が演技派なのかとさえ思ってしまうかもしれない。いや、一応オスカー女優だし、『シカゴ』 は最高だったんだけど、まさかこんな風に自然に輝いて見えるとは思わなかったんだよね。整形したからってのも大きいかもしれないが、スピルバーグの手にかかると、こんなにいい女優になるなんて。一気に大好きな女優になってしまった。勿論スピの映画なので、売り出し中のディエゴ・ルナを始め、彼が恋に落ちるゾー・サルダナなどなど、ワキ役もみんないい味を出している。清掃員のグプタ役のお爺ちゃん、おいしいところを持っていって、泣けてきます。

 これから 『ターミナル』 を観る人(特に、泣かせ系全開の予告編を観て期待した人)に一応言っておくと、『ターミナル』 は軽いコメディだ。ハンカチ片手に、ヒューマニズム路線に大泣きしようと映画館に行くのはやめましょう。スタンリー・トゥッチ演じる警備主任のディクソン以外はみんなイイ人で、ディクソンの役回りも典型的だし、ストーリーも、あまりに都合よく話が進んでいくのに白けてしまうかもしれない。けど、これは空港を舞台にしたリアルな物語というよりも、むしろファンタジーに近い映画なんだと思う。ストーリーも、そんなうまく行くわけないだろと思いながらも、その理想的な展開に乗せられて、思わず微笑んでしまう。そして見終わると何だかいい気分。そう言えば、アメリアの登場シーンや、アメリアとナボルスキーのディナーや、噴水でのシーンなどなど、映画全体のトーンが古き良き時代の映画を思わせてくれる(それは、空港全体がセットという一種アナログな仕掛けがあるからというのも大きい)。リアルな感情や人間の哀しさが描かれる映画でないとなかなか評価されない最近の流れの中で、こういう映画を作れるっていうのが、やっぱり映画の良心、スピルバーグなんだなぁ。

 そうそう。『キャッチ・ミー〜』 でも同じことを書いたけど、エンドタイトルに今回もニヤリ。最後までニクイ演出、さすがです。次回作、トム・クルーズ主演の 『宇宙戦争』 のリメイクにはティム・ロビンスも登場。楽しみ楽しみ。





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