祝! スティーブン・ソダーバーグ、 アカデミー監督賞受賞!
主役の一人のマイケル・ダグラスいわく、108人の登場人物が交錯するらしいが、配役に漏れが一つもないのが驚きだ。オスカーを受賞したベニチオ・デル・トロが素晴らしいのはもちろんだが(これだけの個性派にオスカーというのもちょっと嬉しい)、正直、キャサリン・ゼタ・ジョーンズにはびっくりした。彼女は妊娠中にこの役を獲得して妊婦の役に書き換えてもらったと言う。それにより生まれるリアルさ・・・は実はそんなにないが、自分の知らない麻薬の密売の疑いで夫が逮捕されて、壊れゆく家庭を死守しようと証人の暗殺を企て、密売に自らの手を汚していく役を怖いくらいに演じきっている。ただの上流階級のマダム気取り女優かと思っていたが、事態を切り抜けようとする強さを、その危険性をはらみながら演じるとは、なかなかやるもんだ。
しかし、特に素晴らしかったのはドン・チードル。ラストの彼が良い。麻薬王の摘発にとりかかっている警官を演じる彼は、無駄だとわかっていて動くのが一番どうしようもないと、逮捕した証人に言われる。麻薬戦争を止めることはもはや出来なくなっていて、その現実を目の前にして、麻薬密売を摘発しようと動いている自分の道化的役回りに彼は気づかされる。そして、その闘いで犠牲になったものがある。彼は、最後の笑顔でそれらに対する怒りを全て表した。このシーンは必見です。
トラフィックとは不正取引。麻薬の密売という大きな問題を背景に様々な人間模様が描かれている。一人娘が麻薬中毒に陥っている新任の麻薬取締役判事。その判事が目をつけたメキシコの2大麻薬カルテルの権力抗争と当局の間ではさみうちになる警官。そして、そのカルテルを相手に麻薬の密売をしていた男の妻と、その夫を逮捕した麻薬取締局の刑事たち。彼らを軸に3つのストーリーが同時進行で進む形は、最近では『マグノリア』などでも見られた群像劇のパターンだ。『マグノリア』がその勢いを全面に出していたのに対し、『トラフィック』は静かに登場人物を追う。彼らが麻薬の根絶に立ち向かったり、麻薬王の摘発に躍起になったり、カルテルをつぶそうとしたりするのは、安っぽい正義感からではない。彼らを行動に駆り立て、彼らの運命を変えるのは、ある状況に追い込まれた一人の人間としての感情であり、その点でこの映画はサスペンスというよりはドラマとなっている。しかし、その熱さを感傷的にならずに冷静に見つめたソダーバーグの演出は説得力があり、撮影監督も偽名で兼任しただけあって、絡み合うストーリーを映像の質感の違いでわかりやすく呈示する。ドキュメンタリータッチなので音楽も最小限。緊迫感を出すために使われることはあっても、話を盛り上げるのに音楽が使われることは一度もない。映画が終わった後に残る、終始冷静なその視点。それは一過性の盛り上がりではなく、静かに響く重みを観るものに与えているのだ。
ところで。アルバート・フィニーとベンジャミン・ブラッドがどの役だったかわかんないのです。ブラットがオスカーナイトでジュリアの隣でオマケ程度に映し出された時に、しっかり "TRAFFIC" って文字が見えたのに・・。そうそう。ノンクレジットでサルマ・ハエックが出てたっけ。
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