『月のひつじ』 というタイトルに、
こんなポスター。果たしてどんな映画を想像するでしょうか。父親を亡くした宇宙飛行士を目指す無垢な男の子が、パパは羊と一緒に月に住んでると信じて月を目指すファンタジー?おいおい、それなら羊じゃなくてウサギじゃないのかー。そもそも原題は 『
THE DISH』 。そして向こうのポスターは
こんなん。おっと。宇宙飛行士も映ってるぞ。
てな具合で、この映画が、アポロ11号に乗ったアームストロング船長たちが人類初の月面歩行をした話だとは、よもや誰も思うまい(少なくとも題名を聞いただけでは)。そして、『月のひつじ』 はアポロ11号に焦点を当てた話ではなく、その裏方、それもNASAの人々ではなく、アメリカの裏側、オーストラリアの裏方達のお話だ。
オーストラリアの片田舎、パークスに突然やってきた話。それは、アポロ11号の乗組員が月に足跡を残す瞬間を、宇宙から受信し、世界中に放映するという大仕事。全世界が期待して見守る瞬間の責任が、羊しかいない片田舎の町に任された!それもひとえに、牧羊場のド真ん中にぽつんと建てられた南半球一の大きさを誇るパラボナアンテナ "
THE DISH"があるから。アメリカ大使に自国の首相が町を訪れ、浮き足立つパークスの住民。アンテナ建設を実現させた町長は、事が大きすぎて嬉しいような心配なような。そして、アンテナを動かしていたのは地元研究所の科学者3人と、NASAから派遣されたアルの4人。何より彼等が、科学者として、期待と不安に胸がいっぱいになっていた。勿論、全てが順調に行くはずもなく、そこには世界中で中継を観ていた人たちには知るよしもない、ささやかなドラマがあったのである。
歴史あるところにドラマありとはよく言ったものだが(言ったっけ・・・)、その裏のドラマに目をつけたところがグー。人類初の月面歩行の瞬間。それを多くの人が(リアルタイムでないにしろ)テレビで目にしているのも、彼ら4人の奮闘のおかげと思うと何だか泣けてくる。彼らの周りの登場人物に悪人は誰も出て来ないが、それも良し。決して彼らの助けになっているワケではないのに、ユニークなキャラクター勢揃いで、見ているだけ口元が緩んでくる。そして、気づけば町の人たちと一緒に着陸シーンの放映を心待ちにしている自分。登場人物みんなが、いい味を出している。誰がどうとか、このシーンがどうとか、そう言ったのじゃなくて、何だか全部がイイ。こういう映画、ホント大好きです(実は一つだけ文句があるのだが・・・まぁそれはこの際目をつぶろう)。
エンドクレジットには監督、製作、脚本の名前が出てくるが、実際にはそれぞれ担当者がいるわけではなく、5人のメンバーからなるワーキング・ドッグという一つのクリエイティブ・チームが 『月のひつじ』 を作っている(2作目)。これは注目。是非第1作目の 『THE CASTLE』 も公開してほしい。アンテナの責任者、クリフを演じるのは、ご存知 『ジュラシック・パーク』 のグラント博士ことサム・ニールだが、ハリウッドでメジャーになった今でも活動の拠点をオーストラリアとし、こんな映画に出ているあたり、彼の俳優としての素晴らしさが分かると思う。所員の一人、奥手な青年グレンを演じるトム・ロングが個人的には面白かった。いや、みんな面白かったんだけどね。
ちなみに、羊はほとんど出てきません(笑) 『月のひつじ』とは、なかなかステキな語感ではありますが、『シャンプー台のむこうに』に続いて「もうちょい邦題練り直した方がいい、最高の映画」 にしたいと思います。\(^^)\