久々に「ずしり」と来る映画を観た。哀しさが重みになる作品。なかなかない。
主人公はマーク・ウォールバーグ扮するレオ。窃盗罪で1年半入っていた刑務所から出た彼を迎える母親(エレン・バースティン)、従兄弟のエリカ(シャリーズ・セロン)に、エリカの恋人で幼なじみのウィリー(ホアキン・フェニックス)。レオは、エリカの母親(フェイ・ダナウェイ)の再婚相手のフランク(ジェームス・カーン)の会社で働き始めるが、そこではウィリーと仲間達が、市長を始めとする鉄道部品の発注に関する汚職に絡んでいた。そして思わぬ犯罪に巻き込まれたレオは、ウィリーの仲間や警察に追われる身となる。
とまぁ、筋書きはサスペンスだが、主体は「家族」の物語だ。物語の焦点は汚職云々ではなく、汚職に関わる犯罪で崩れていく家族の肖像を重厚に見せてくれる。
それにしても、よくぞ集まったこのキャスト。地味ではあるが、かなり豪華だ。ホアキン・フェニックスは、この映画と『グラディエーター』の演技で2000年の映画賞をさらっている。彼の暗い目には、ワケありで自分を悔やむ役が似合うし、実際上手い。が、この映画ではシャリーズ・セロンがいつになくいい。この人はメイクから役に入る人だが、黒のマニキュア、暗い目元、笑っていても不幸に見える顔、メイクだけではないこのオーラ。いつの間にこれだけの女優になったんだと驚く。2000年、2001年の彼女出演映画はいずれも4本。よく働く女優である。そして、売れても辞さない脱ぎっぷり。ひょっとしたらこの女優、大化けするかもしれないぞ。ちょっと甘く見ていました。
そして、ベテラン勢3人の味だ。ダナウェイにはあまり出番がないのだが、何でこの人、あんなメガネをしてるんだろうと、そればっかり気になった。何よりエレン・バースティンが素晴らしい。心臓病を患い、女手一つで育て上げてきた一人息子が出所したかと思うと、犯罪に巻き混まれて容疑者扱い。しかし、息子の前で弱くはなれないことを彼女はわかっていて、気丈に振舞うバースティン。そうか。やはりこの映画は「家族」の映画なのか、と気づく。果たして誰が汚職事件の、いや、家族の「裏切り者」となるのか。しかし「血より濃いものはない」とはまさにその通り。彼らが辿る結末の悲しさは避けられないにしろ、それでもなお哀しすぎるものであった。
監督のジェームス・グレイは、『リトル・オデッサ』で初監督を飾り、本作が長編第2作目だ。実はまだ前作を観ていない。ビデオは持っている。『裏切り者』の冒頭の、レオを迎えるパーティー・シーン。レオの出所を皆で祝い、母親がお礼の言葉を言う。盛り上がる客人たち。しかし、なぜか不吉な予感を漂わせる暗い演出は出色だ。(ホアキン・フェニックスに至っては彫りが深いので眼球がほとんど陰になって見えない) 音楽のハワード・ショアは、ここでホルストの『土星』を使うという反則ワザで静かに得体の知れない哀しさを感じさせている。
だが、この映画が手放しで佳作と言えないのは、ラストの安易さと、ひとえにマーク・ウォールバーグの演技力の起因する。前述したように、他の俳優は文句ナシだ。みな、この映画に合った演技をしている。だが、ウォールバーグを見よ。ひたすら眉間にシワを寄せて表情演技のつもりでいるのか。まぁ、それも悪くないと言えないこともないが、だからと言って『猿の惑星』と同じ演技ってのはあまりにマズイんじゃないのー。彼のアップで演出をされても、あーぁ。つまんないなー、って感じである。うーん。残念。
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