ヴェラ・ドレイク VERA DRAKE


directed by Mike Leigh

cast :  Imelda Staunton  Phil Davis
Alex Kelly  Daniel Mays
Adrian Scarborough  Heather Craney
Eddie Marsan  Richard Graham
Peter Wight  Martin Savage
('05 08 14)


 1950年、ロンドン。裕福ではないけれども、優しい夫と二人の子供と幸せな生活を送るヴェラ・ドレイク。彼女には、家族にも話していない秘密があった。それは、母体に危険が及ぶ場合にしか人工中絶が許されなかった時代に、「困っている娘さん達を助ける」こと。望まれない妊娠をした女性達の堕胎を行っていたのだ。彼女たちを見過ごすことはできない。そんなヴェラの優しさゆえの行動だったが、ある日、娘の結婚を家族で祝っていたヴェラのもとに警察が訪ねてくる。逮捕され、裁判にかけられるヴェラ。秘密を知らされた家族。

 何とも感想の書きづらい映画だ。マイク・リーの映画を観るのが初めてだからかもしれない。俳優には事前に自分の役以外の役柄を教えず、リハーサルでの即興から生まれる感情を映画にしていくという彼のスタイルは(当然セリフはアドリブ)、リアルな生活やキャラクターを生み出す一方で、そのスタイルに慣れてないと、映画として不自然な作りにも感じうる。例えば、ヴェラが堕胎を行っているというシーンを前半で描きはするものの、逮捕されてからのヴェラと家族の感情を重点的に描くというのが、普通の感覚の構成だと思う。けど、家族の感情は意外にあっさり描かれてるし、セリフもシンプルだ。逆にヴェラが堕胎を行うシーンや、何事もなく家族と暮らすシーンの配分の方が多い。必要以上なドラマ性と余計な感情を排除して描くと、自然とヴェラの日常を描く方にも焦点が当たるということだろうか。なので、ドラマとして観ると家族の感情の揺れの描き方が中途半端な気もしてくるし、それは、リーが静かに観客に問題提起した結果なのかもしれない。

 だが、それでも彼の独特の演出には大きな価値がある。驚いたのは、ヴェラを演じるイメルダ・スタウントン以外の役者は、ヴェラが堕胎を行っていたということすら知らされていなくて、スタウントンも警官役の俳優がいることは知らなかったということ。つまり、物語が異なる展開を見せる、非常に重要で、かつ印象深いシーンである、家族のもとに警察が訪れる場面ですら全くの即興劇なのだ。スタウントンは、本当に心が痛み、起こっていることが信じられなかったとインタビューで言っているが、確かに、あのシーンの出来は出色。彼女は勿論、他の俳優たちの演技も素晴らしい。演技者としての潜在能力のない俳優だったら、こうはいかない。というか、リーの演出についていけないだろう(そんな俳優を起用するはずもないが)。演出、演技ともども、真価を問われるリーのスタイルは、そう思って観ると、とても興味深く観ることができる。

 最後の方でジム・ブロードベントが裁判官として登場するが、彼がアカデミー賞を受賞した 『アイリス』 もそうだったように、『ヴェラ・ドレイク』 も妻を見守る夫の姿が映画のキーになっている。愛する妻が逮捕され、妻が自分にすら話してくれなかった秘密を知った夫が、その裏切り、彼女の犯してきた罪の深さを感じながらも、受け入れ、赦し、ヴェラの帰りを待つ姿は、やはり感情過多に描かれることはないけど、その分、彼の葛藤が伝わってウソくさくない。堕胎をテーマとした映画として観ると、いまいち核心に手が届いてなくて歯痒いが、監督が狙う、「道徳のジレンマという問題と、ソフトなやり方で観客と向き合う」 という点では成功していると思う。マイク・リーの他の映画も観てみたくなりました。





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