Vフォー・ヴェンデッタ V FOR VENDETTA

 

directed by James McTeigue

cast : Natalie Portman  Hugo Weaving

Stephen Rea  John Hurt

Stephen Fry  Ben Miles

Roger Allam  Tim Pigott-Smith

Natasha Wightman  Sinead Cusack

('06 04 29)

 

 

 近未来。民主主義が滅び、ファシズムによる独裁政治が行われていた英国に現れた謎の仮面の男、”V”。彼は、1605年に国王の圧政に反発して国会議事堂の爆破を企てて捕われたガイ・フォークスにならい、同じ日の11月5日(現在のガイ・フォークス・デイ)に議事堂を爆破し、自由を失った国民に呼びかける。この独裁政治に反旗を翻して再び自由を手にしようとする者は、1年後の11月5日に議事堂の前に集まろうと。そして”V”は過激な手段で反政府運動を開始する。

 

 『マトリックス』 のウォシャウスキー兄弟が製作を手がけてるだけあって、何だかストーリーもタッチも 『マトリックス』 だ。もうちょっと政治的背景を色強くした感じかな。後半、圧政を強いられて沈黙していた民衆が革命へと進んでいく様は確かにスリリングで、政治色の強い題材を上手くエンターテインメントにしていると思う。なるほど、革命っていうのはこうやって起こるのか。これが史実に基づいた話だったら軽過ぎると批判されるかもしれないが、これは架空の近未来の話。ラストで”V”の仮面をかぶった市民が国会議事堂前に集まるシーンは、その結末を分かっていても鳥肌が立ってしまった。つくづく群集シーンに弱い自分。

 

 だが、肝心の”V”の話になるとストーリーに吸引力がなくなり、何だかとても冷静に見てしまう。そもそも登場シーンからして興醒めだ。夜間外出禁止の令を破って外を出歩き、危険な目に遭ったイヴィー(N・ポートマン)の前に突然現れた”V”は、自己紹介代わりに舞台じみたセリフをとうとうと吐く。「あなた、頭がおかしいの?」 とイヴィー。うんうん。俺もそう思ったよ。ちょっと引いちゃうよね。そして次第に語られる”V”の過去は、いかにもコミックが原作という感じでありきたり。演出はリアルなんだけど、ストーリーはマンガで、妙に距離を置いて観ちゃう。全市民のもとに仮面を届けるなんて、結局”V”も金持ちなんだよなーとか、廃止になった地下鉄のレールを1人でせっせと延ばしたりして、案外地味な努力してるのねとか、謎めいてるはずの”V”の存在に冷めたツッコミを入れまくってしまう。そもそも、独裁政治してる割には1年間も”V”の尻尾すら掴めないって、なかなか無能な国家ですね。

 

 ヒロインを演じるナタリー・ポートマンは、ようやく大人の女優っぽくなってきて、目が離せない独特の魅力がある。今回も映画の中で成長する難役を演じきり、ラストシーンで見せる芯の強さはさすがだ。冒頭のモノローグ(マザー・グースの一節らしい)も印象的で、平板なストーリーに飽きないでいられるのも、ポートマンの存在感あってこそだろう。ワキを固めるのも一クセある俳優達で、結局、”V”を演じるヒューゴ・ウィービングだけが見せ場ナシの演じ損になってしまった。本人は仮面をかぶったままの演技ということで、苦労しつつも演じ甲斐があったらしいが、仮面の下の素顔を見たいとも思わないヒーロー像では役不足だ。『マトリックス』 と 『ロード・オブ・ザ・リング』 のイメージばかり残らないためにも、仮面もサングラスもつけない役で印象付けた方がいいような気がするんだけど。