『サイン』 のM.ナイト・シャマラン監督の最新作ということで期待していたのだが、ちょっと期待し過ぎてしまった。確かに面白かったけど、『サイン』 に比べるとどうしても物足りない感が。今回のシャマランの超常現象は、ある村を囲む森に住む怪物、「名前を口にしてはならぬもの」。昔から彼らは、村人が森へ立ち入らないことを条件に、村に入ったり、村人を襲ったりはしない条件になっていた。森へ足を踏み入れてはいけない、不吉な色の赤は封印する、などの掟があるこの村で、ある日転がっていたのは、皮を剥がれた家畜。そして家の扉に残された赤い爪痕。これは 『彼ら』 からの警告なのか。
ということで、いつものようにモンスターの話と見せかけておいてシャマランが語るのは、愛。な、なんてベタな、と思うかもしれないが、このベタで単純な話を、あの手この手で飽きさせずに話を引っ張るシャマランの演出は、やっぱり上手い。そういう意味でのシャマラン節は健在だ。ただ、どうしても脚本に吸引力が欠ける。話のタネばらしは面白いんだけど、途中で話がリアルになるからか、後半の設定への持って行き方に説得力がないのだ(ここらへん、ネタバレ禁止令で具体的に書けない)。そもそも、この映画を純粋に楽しめるかどうかは、エイドリアン・ブロディ演じる精神障害者のノアの描き方に共感できるかどうかにかかってるんじゃないでしょーか。その描き方も悪くはないけど、決して後味も良くない。またブロディがわざとらしさ寸前で上手いものだから(衝撃のあのシーンでの彼は見事)、余計に容赦なくて、手放しで楽しめないところがあるんだよね。てか、印象的なシーンが全部、ネタバレになるから書けないんですけど。
と、ぐだぐだ文句を言う割りに観てて結構楽しめたのは、演出のおかげと、もう一つ。ヒロインのアイヴィーを演じるブライス・ダラス・ハワードの、みずみずしく、予想以上の演技があるからだ。盲目という設定にしては結構見えてますが、本格的な映画出演が初とは思えない魅力。一番印象的だったのは、彼女が手を差し出しながらルシウス(ホアキン・フェニックス)を探して歩くシーンだが、どのシーンでも、ハッとするような鮮烈な印象を残している。観た後に知ったんですが、ロン・ハワードの娘(!)なのね。次回作は 『ドッグヴィル』 の続編、『MANDERLAY』。前作でニコール・キッドマンが演じたグレース役を演じるとか。ラース・フォン・トリアーに苛められて、ますます強い女優になりそう。
無口で影がある青年役はもはや十八番のホアキン・フェニックスは、地味な印象ながらも、やっぱり上手い。夜のテラスで盲目のアイヴィーに愛を打ち明けるシーンには、やられました。シガニー・ウィーバーはあんまり出番なかったが、ウィリアム・ハートは良かった。ごひいきマイケル・ピットは今回は控えめ(てか、ピットじゃなくても・・・)。さっきも書いたけど、エイドリアン・ブロディは伊達にオスカー俳優じゃないね。うん。ブレンダン・グリーソンは、今年劇場で会うの3回目。セリア・ウェストンの顔はやっぱりインパクトあるなー
アン・ロスによる衣装、ロジャー・ディーキンス(コーエン兄弟の常連)による撮影が素晴らしい。「不吉な色」 の赤の際立たせ方はさすがだし、何気ない風景のシーンでも、不吉なものを感じさせる空気をとらえている。『サイン』 ではしびれたジェームス・ニュートン・ハワードの音楽も、今回は前半の山場(?)のシーンでかなり白けてしまった。他は良かったけど。
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