『ワールド・トレード・センター』 が製作されると聞いた時、不安になった人は僕だけではないだろう。タイトルからも分かるように、ただでさえデリケートな題材なのに、監督がオリバー・ストーンである。確かに 『JFK』 も 『プラトーン』 も傑作だ。だが、史実に基づいた独自の解釈を映画の中で展開し、良く言えば観る者に衝撃を与え、悪く言えば自分の解釈を押し付けてくるストーンの演出で「9・11」を語られたら、下手するとストーン節が暴走しかねない。戦争と自由に関して、もう分かったよっていうくらい声高に叫ばれたらどうしよう。それに前作の 『アレキサンダー』 は、ホントに 『JFK』 を撮った人と同じ監督? ってなくらい面白くなかったし。
しかし実際は、あの 「9・11」 を真面目にとらえ、あの恐ろしい事件の陰であまり語られることのなかった人間の善と希望を描いた、至極真っ当な物語だった。もう1本の「9・11」映画、『ユナイテッド93』 が事件が起こるまでを克明に描いたのに対し、『ワールド・トレード・センター』 は事件が起こってからの人々の姿を描いている。貿易センタービルに残された人々を救出しようとするも、崩れたビルの下敷きになったしまった2人の警官、彼らの無事を祈る家族、そして彼らを助け出そうとする人々。これまでの監督作では常にアメリカの暗部をえぐり出してきたオリバー・ストーンだが、そんな彼でさえも、あの事件の前では、人の命を救いたいという純粋な人間の行動、そして愛する人を大切に想うという純粋な人間の心を描くことに徹したのである。そして最早 「巨匠」 と呼ばれるだけあって、スキャンダラスな話でなくても、しっかり物語を見せてくれる骨太な演出はさすが。後半、登場人物の感情の波が押し寄せてくる間隔が段々短くなってくると、ちょっと盛り込み過ぎの感が出てくるが、良い意味でも悪い意味でもストーンの手慣れた演出力が発揮されて、最後まで見入ってしまった。その分、観た後はぐったり疲れちゃったけど。
主演の2人は、瓦礫の下で埋もれて身動きが取れない状態が大半での演技だが、生きる希望と精神力を失わずに助けを待つ姿を演じていて、とてもリアルだった。どうしても娯楽作の出演が多くなるニコラス・ケイジだが、久々の入魂の演技だ。こういう真剣な役も出来るところが彼の芸域の広さで、だから需要が耐えないんだろうね。もう一人のマイケル・ペニャは、『クラッシュ』 で一番印象に残った俳優だったので名前を覚えていたが、こういう役をしっかり演じていて、名前を覚えていた身としては嬉しい。ただし、他の登場人物は添え物的な扱いで、マリア・ベロとマギー・ギレンホールが演じる2人の妻のキャラクターも、やや紋切り型に描かれていた。この2人ならもっと役に深みを持たせられただろうし、主演の2人が素晴らしいだけに、残念。
|