奈良大和路旅日記

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参日目 弐仟捌年玖月拾捌日

 

 

 そろそろ台風が日本に上陸しそうというニュースが流れ始めた3日目。今日の空模様は、雨こそ降っていないがどんより曇っていて、いつ傘が必要になってもおかしくないなさそうな感じ。暴風雨になる前に見どころは押さえておくという方針なので、今日は興福寺、東大寺、春日大社、そしてシカと、奈良の観光名物が揃う奈良公園へ行くことに。奈良公編へ向かう途中にあるドトールで朝食を食べて、そのままいざ観光だ。

 

 奈良公園はホテルから歩いて10分くらい。まず最初に猿沢池が見えてきて、そこから興福寺へ。三重塔、北円堂、南円堂、五重塔と、境内を一周。五重塔の姿を遠景で眺めると、別に何の記憶も残ってないのに(修学旅行で来てるはずなんだけど)あぁ、奈良だなぁと思うのは日本人だからでしょうか。

 

五重塔、遠景。

見上げるとまた違った魅力が見えてくる。

 

 五重塔を目の前で見てる間に、早速本日一頭目のシカを発見。しかし今は鹿せんべいを持っていないので、逸る気持ちを抑えて先へ進んだ。そのまま東へ行くと東大寺、春日大社があるのだが、その途中には奈良国立博物館が。ここは本館と新館に分かれていて、たくさんの観音像や古代中国の土偶や銅器など多くの展示品があって見応えはあるものの、本館だけで疲れてしまった。結局新館には行かずに博物館を後にして外に出ると、そこには数頭のシカと鹿せんべいを売っているお店が目に入ってきた。ということは。ということは! とうとう 「奈良公園でシカと戯れながら鹿せんべいをシカにあげる」 という夢のイベントができるのだ。というとさすがに大袈裟だが、3年前にケアンズに行った時にワラビーやカンガルーにエサをあげたのが本当に楽しくてカワイくて、それと似たようなことができると思うと楽しみで楽しみでしょうがないだ。

 

ということで、この2頭にエサをあげようと思います。

 

鹿せんべいを買おうとすると寄ってくる2頭。

 

 そう。このシカたちはここで鹿せんべいを売っているのを知っているのだ。そしてここで待っていればエサを食べることができるのを知っているのだ。この店に向かって来た人たちは僕たちにエサをくれる人。この灰色の服を着た人はエサをくれる人。もう、財布からお金を出そうとしてる傍から背中やお尻を頭でつついてきて、早くちょーだいとねだってくる2頭。カワイイのだが、カワイイなりに勢いがあって、ちょっと油断すると8枚入りの鹿せんべいを全部まるごと食べられてしまうんじゃないかという恐怖に似た不安がよぎり、若干たじろいでしまったのだが、そうなるとますます 「早くちょーだい」 度が増して追いかけてくるシカたち。しかも数どんどん増えてるし。

 

2頭が気づけば3頭に。

エサをあげているというより逃げてるようにしか見えない。

 

3頭が4頭に。僕、完全に腰が引けてます。

左手は必至の防御態勢。

 

そして4頭が5頭に。

もう鹿せんべいはなくなってしまいました。

 

近くの道路にはこんな標識も。奈良ならではだ。

 

 

 いやぁ。シカのパワーなめてました。頭がいいのか単純なのか、エサが欲しくてしょうがないという欲求をとにかく体で表現。こっちを見ながら首を上下に動かしたりするのも 「ちょーだい」 オーラ全開でカワイ過ぎるぜ。それにしてもなんて無防備なんだ。こんなに警戒心がなくて平気なのも、奈良という町の独特の雰囲気ならではの気がする。ということで暫しシカの画像をお楽しみください。奈良公園のシカ、8連発。

 

歩道も歩いてます。こっち見てる?

 

こちらは置物みたいなカワイさ!

 

では愛くるしい顔をアップで。

 

 

たまに長老のようなシカも。

『もののけ姫』 のシシ神さまみたい。

 

鹿せんべいを買う人を並んで待っているトリオ。

店頭に並ぶ鹿せんべいは食べようとしないところが偉い。

 

たまにツノが生えているシカも。

角刈りが10月なので、来月にはなくなっちゃうんだろうな。

 

世界遺産の石碑の前で。ワタシも世界遺産よ!

 

溝の中は案外おさまりがいいの?

 

 こうやって写真を撮りながら東大寺へと向かっているわけだが、この東大寺の入口である南大門の前がシカのピークだった。鹿せんべい売場の前で3頭並んでいるのも南大門へ向かう通りの途中で、他にも記念撮影とかしてる人たちの横でちゃっかり待ってたりする。シカも、この通りが一番観光客が多くやってくるのを分かってるんでしょう。逆に南大門を通り過ぎるとシカの数は突然減るのだが、その理由は境内では鹿せんべいを売っていないからに他ならないと思われます。そんなに鹿せんべいって美味しいのか。

 

シカに夢中になって歩いていると、いつの間にか南大門の前に到着。

 

南大門を通って更に進むと、中門の向こうには大仏殿が。

 

 興福寺の五重塔もそうだったけど、東大寺の大仏殿は中学校の修学旅行で行っているはずなのに、ほとんど記憶にない。そもそも今回の旅行を奈良に決めた理由の一つは、奈良のお寺や遺跡には中学生や高校生の時には理解できなかった趣があるのではと思ったからで、新たな発見をどこかで期待していたのだが、新たも何も、記憶が甦ってくる気配すらなかった。とても新鮮な気持ちで大仏様を望むワタクシ。今回見て思ったのは、確かに大仏様は大きくて立派な姿をしてらっしゃるのだが、それよりも大仏様の後光の中にいるプチ大仏様たち、そしてそれを含めた後光全体の彫刻の精緻な美しさに感嘆した。こういう細かいところに目が行くのは、大仏様でけー!で終わってしまう中学生の頃ではありえなかっただろうなぁ。

 

さりげなくプチ大仏様たちを主役にした角度で大仏様を激写。

 

彼らの地道な努力が前にいるビッグな大仏様を引き立てているのだ。

 

大仏様の両隣には虚空蔵菩薩像と如意輪観音菩薩像(写真は如意輪観音)。

 

 この如意輪観音菩薩像も、整った穏やかな顔立ちと姿勢正しい御姿が神々しいオーラを発していた。その他、大仏殿は中を一周できるので、大仏様を横から後ろから見ることができる。そんなことも全く覚えていなかった。大仏様だと何だか仰々しいので、正式名称の盧舎那仏に呼び方を変えよう。盧舎那仏の横の奥には多聞天像、広目天像が立ち、その更に奥には当時の東大寺の様子を再現したミニチュア模型が置かれている。盧舎那仏の鼻の穴と同じ大きさの穴が開いているという柱もあった。穴をくぐると幸せになるという言い伝えがあるということで、これまた修学旅行生がハズシなくくぐってました。

 

大仏殿入口。写真中央の観相窓は、

大晦日から元旦にかけてのオープン。

開くと大仏様のお顔を拝観できます。

大仏殿前の金銅八角燈籠。

奈良時代創建時のもので、

楽器を演奏する観音様が彫られている。

 

大仏殿入口横に佇む謎の彫像。

ホラー映画 『SAW』のジグソーを思い出すんですけど・・・

 

 東大寺の敷地はこの大仏殿を真ん中にして東西に広がってて、東側には二月堂や法華堂、西側には指図堂、戒壇堂などがある。戒壇堂は行くといいよと旅行に行く前にMさんが言っていたので、一先ず西側へ行くことにした。あまりガイドブック等で派手に紹介していないからか、戒壇堂のある西側は人が少ない。人が少ないせいもあって戒壇堂の中は静寂に包まれ、四隅に置かれた四天王像の姿とともに厳かな雰囲気であった。

 

 ここらでぼちぼち昼ご飯の時間なので、東大寺の境内を離れ、奈良国立博物館から東大寺へ向かう途中で食事処が何件か並んでいた通りに出た。食事処というよりも喫茶店の方が多く並んでいた中で、なんとなく奈良らしいものが食べれそうなのお店へ入り、奈良名物の柿の葉寿司が入ったセットメニューを注文。本当の柿の葉寿司がどういう味なのかを知らなかったのだが、どうやら本物の味ではなかったらしい。まぁ、この値段ならそんなものかなぁ。

 

 食べ終わったら再び奈良公園内へ戻り、次は春日大社へ。奈良駅の方から見ると春日大社は奈良公園の奥の方に位置していて、東大寺南大門前の通りを通り過ぎて春日大社参道を歩き始めると、その周りは林のように樹木が生えて頭上を覆い、曇り空であまり明るくなかった空がますます暗くなる。段々と人の手があまり入っていない空間へ足を踏み入れいていく雰囲気だ。相変わらずシカもたくさんいるけれど、春日大社の方のシカはあまり 「エサちょーだい」 オーラがなく、人間の姿などお構いなしに悠々と座っているのが多い。シカもこのどこか厳かな雰囲気を分かっているのだろうか(単に鹿せんべいを売ってるところが少ないだけか)。 ちなみに、参道の途中に無人の鹿せんべい売場があったので、いつどこでシカに遭遇しても鹿せんべいをあげられるように、ここで一束買ってカバンに忍ばせておきました。

 

参道の脇に生える大木が厳かな雰囲気を演出してます。

 

シカも落ち着いたオーラで座っている。夫婦かな。

 

参道脇には無数の燈籠が。

 

今はもう潰れてしまった奈良そごうの燈籠も。

 

 この燈籠は全部で約3000基あるとのこと。800年前から今日に至るまで、藤原氏をはじめとした一般国民が奉納したものだそうな。毎年節分とお盆の頃に行われる万燈籠では、この全ての燈籠に火が灯るらしい。さぞ幻想的な雰囲気に包まれるのだろうなぁ。いや、それともお化けが出そうで怖くなるだけかも。

 

二の鳥居の前には鹿の姿をした手水。

ここでは鹿は神の化身なのだ。

 

 二の鳥居を通り過ぎ、燈籠に囲まれながら参道を登って行くと、燈籠の岩や木々の緑の中で一際映える橙色の門が登場。春日大社の南門である。南門をくぐって参拝受付を通ると、ぐるっと四角形に取り囲む橙色の回廊、そして正面には御廊を左右に従えた中門の姿が見えてくる。ここも修学旅行で行ってるはずなんだけどなぁ。覚えてるような、太宰府天満宮とごっちゃになっような・・・・

 

ショッキングオレンジと呼びたくなる突然さで登場する南門。

 

南門をくぐった先の回廊の下には釣燈籠がいっぱい。

 

樹齢約1000年と言われる杉の木も。

平安時代から聳えている御神木だ。

 

 ここでは 「鹿みくじ」 という、おみくじをくわえてた小さな木製の彫り物のシカが売っていた。500円。まぁ、おみくじと鹿の彫り物の2点セットと思えばそんなもんか。せっかくなので買ってみたら、末吉。末吉って 「吉」 の中では一番悪いんですよね。凶の一歩手前ですよね・・・・ そして出たー! 街中でも何度か見かけたが、春日大社の中にまで進出していた、せんとくん。鹿みくじ売場のすぐ横に置いてあったのだが、この色とツヤが余計に気持ち悪さを倍増させていると思います。

 

チョコレートに見えなくもない色づかい。

 

 この後は参道をもう少し奥まで行き、再び来た道を戻って春日大社を後にして、今度は南西に向かって浮見堂に行こうとしたのだが、ガイドブックの地図を見ながら歩いていたら細い横道に入ってしまい、それが段々と道なき道へと変わっていき、周囲の景色が 「このままでは奈良公園の樹海で遭難してしまうのではないか」 というレベルにまで達してしまった。その途中でシカを飼っているような場所があり、中にはシカがいっぱい座っていた。この中に入って鹿せんべいをあげたくなるが、そんなことしたら無数のシカに取り囲まれて大変なことになりそう。

 

柵越しに撮ったので遠景で見難いが、シカがいっぱい。

 

 さらに道なき道を進むと、突然視界が開けて草原に出た。なんだこの開放感。英国貴族が猟犬とか放ちながら散歩してそうな草原だ。残念ながらシカの姿は見えないが、ここでシカと戯れたら楽しそうだ。もうこの際シカじゃなくてもいいから、飼い犬とかと遊びたい。そんな開放感あふれるこの草原は飛火野と呼ばれ、シカがたくさんいる時もあるそうな。実際、僕らが飛火野を後にして一般道路に出ようとした時に来た方を振り返ったら、向こうの方から何頭かシカが現れた。もう戻るのがめんどくさかったのでシカと戯れはしませんでしたが。そして道なき道と思っていた道も鷺原道(さぎはらみち)と呼ばれているちゃんとした道で、その昔、興福寺大乗院の僧たちが春日大社へお参りに行くのに通った道らしい。季節によっては藤の花がとても綺麗だそうな。

 

飛火野。ここでシカが放し飼いにされている時もあるのだ。

 

またここにも大きい木が。

 

 この鷺原道を抜けていくと鷺池という池があって、浮見堂は鷺池の中に建っている。ここらへんは鷺が多かったのか、鷺池には何羽か鷺の姿が見えた。まぁ、鷺より鴨の方が多いけど。浮見堂を過ぎたところで何頭かシカの姿が見え始めたので、カバンの中にある秘蔵の鹿せんべいをあげて、そのまま奈良公園を出てぶらぶらと一般道を歩いていくことに。一応目的地は元興寺だったのだが、半ば歩き疲れたのと、何があるわけでもなさそうだったので元興寺には入らず、門だけ見ておしまい。奈良町と呼ばれる、昔ながらの町並みが残る一角を歩きながら再び奈良公園へ戻った。なぜ戻ったかというと、まだ鹿せんべいが余っていたから。カバンの中に鹿せんべいを忍ばせてホテルに戻ってもしょうがないのだ。しかし、なぜか進めど進めどシカの姿が見当たらない。ちょっと奈良公園に足を踏み入れるくらいのつもりで戻ったのに、どんどん奈良公園の奥へと進む羽目に。ようやく国立博物館の前で座って休んでいるシカを見つけて、やっと御役御免。ふぅ。歩き疲れたけど鹿せんべい食べてるシカを見てると癒されるぜ。

 

その後入った抹茶専門喫茶店で食べた特大抹茶かき氷。

その大きさが伝わりづらいが、器がラーメンのどんぶり大なのだ。

 

 まだ時間は夕方前だが、今日はこれで観光終了にしてホテルへ戻ることに。もともとそういう予定だったというのもあるのだが、ホテルに戻ってやらなければいけないことがあったのだ。今週の火曜日が締切だった某雑誌の原稿である(今日は木曜日)。昨日、飛鳥へ行く途中に出版社に電話して締切を金曜日まで延ばしてもらったのだが、取り寄せる資料の関係もあり、結局前日の今日になって慌てて仕上げることになってしまった。ということでホテルの部屋に戻ってノートパソコンをネットにつなげてメールを受け取り、既に書いていた原稿を手直しして、直した原稿と資料をCDRに落して、宅急便で東京の出版社まで郵送。作家がホテルの部屋に缶詰めになって原稿を仕上げていくのを疑似体験した気分になった。いや、作家さんは明らかにもっともっと切羽詰まって大変なのだと思うが。いや、そもそも締切を勘違いしていた自分が悪いのだが。

 

 原稿を仕上げた後は、駅前の本屋さんへ。明日はもしかすると台風が奈良を直撃するかもしれない。そうなると1日ホテルから出れなくなりそうなので、そんな時のヒマつぶしのために本を買いに行くことにしたのだ。何を買うか迷った末(最近本なんて買ってないので)、ドイツでベストセラーになったという海洋SFサスペンス小説を買った。上中下の計3巻。これなら1日時間が余っても退屈しないですみそうだ。結局台風は直撃せずに、この日記を書いている10月上旬になってもまだ1ページも読んでいないのだが。

 

 夕飯は、ホテルのエレベーターの中に張ってあったコース料理のメニューが美味しそうだった、ホテル7階の和食レストランへ。昨日食べた朝食がイマイチだったので過剰な期待は禁物なのだが、柿の葉寿司や茶粥など、奈良名物をふんだんに盛り込んだコース料理は食べ応えがあって、味もなかなか。量も十分あったのでお腹いっぱいにはなったんだけど、まるで従業員が早く仕事を終わらせたいかのようにすごい勢いで料理を出してくるので、あっという間にテーブルの上はお皿でいっぱいになってしまった。そうなるとこっちも慌てて食べなきゃいけないような気がして、あっという間に食べ終わってしまった。和食のコース料理って普通は一皿ずつ出てくるものなのでは? まぁ、昼と違って柿の葉寿司は本物っぽかったのでヨシとします。

 

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