奈良大和路旅日記

壱日目   弐日目   参日目   肆日目   伍日目

 

 

 

 

肆日目 弐仟捌年玖月拾玖日

 

 

 今日はいよいよ台風が近畿地方に上陸するのではないかと恐れていたのだが、起きてみると、窓の外では小雨がしとしと降っている程度。お、これなら観光できるんじゃないか? ということで、昨日のうちに買っておいたパン屋さんのパンを部屋で食べてから、本日の観光へ。まぁ、途中で台風がひどくなってきたらそこでやめればいいし。

 

 今日の予定は、まだ足を運んでいない、奈良市内に点在しているいくつかのお寺を巡ることにしていて、最初に薬師寺に行き、唐招提寺まで歩き、まだ天気に余裕があれば法隆寺まで足を延ばすというプラン。まずは薬師寺だ。薬師寺へは近鉄奈良駅から近鉄で大和西大寺駅まで行き、そこから南下して2駅の西ノ京駅で下車し、西ノ京駅から歩いてすぐ。

 

 

 

 ホテルを出る時は、雨の中を観光するのは億劫だなぁなんて思っていたのだが、いざ薬師寺の境内へ入ってみると、小雨が降る中をお寺巡りというのも何だか風流な感じで悪くない。雨で観光客が少ないのも雰囲気を出していて、東院堂の中に入り、しとしとと雨が降る中で四天王立像と観世音像を目の前にした時は、今までのどのお寺よりも荘厳な雰囲気が漂っていた。あぁ、お寺って本来はこういうものなんだよなと、観光地っぽくなっているお寺とは一線を画す雰囲気だ。どこか神妙な気持ちになる。

 

東院堂を外から。そして中では撮影禁止なので、

 

四天王像を外からデジタルズームで撮影。

 

 という感じで 「これぞ古都、奈良のお寺」 な雰囲気を堪能していたのだが、その間に雨は着々と激しさを増し、気づけば超がつく大雨になっていた。そんな大雨の中、薬師寺のメインと言える東塔、西塔、金堂をじっくり拝見。西塔、金堂は昭和50年代に再建されたものだが、東塔は創建当時から残る建造物で。つまり造られてからかれこれ1,300年経っていることになる。いやぁ。目の前に建っている芸術的な建造物が1,300年も前からこの地にあると思うと、鳥肌も立つというもの。この塔は平城京の時代から現代まで、1,300年の年月の間に起こったことを見てきたのだなぁ。

 

美しくて芸術的で、歴史を感じる東塔。

昭和時代に再建された西塔は色使いが鮮やか。

 

東塔先端の水煙の複製。人が飛んでます(飛天像)。

 

東塔、西塔、金堂を一眼に。

 

そして雨は強くなる一方・・・・

 

 ズボンもカバンもびしょ濡れである。ここまで濡れてしまうと、もう冷たくでも何でもいいやという気になってくるくらいだ。しかし風は強くないので、あまり台風っぽくない天気。濡れていることさえ耐えられれば観光可能である。ということで、そのまま玄奘三蔵院伽藍へ足を運んだ。東塔や西塔があるのは薬師寺の白鳳伽藍で、そこから北へ道路を渡った敷地にあるのが玄奘三蔵院伽藍。その名の通り玄奘三蔵を祀っているのだが、玄奘三蔵院は1991年に建てられたという新しいもの。中で展示されているのは日本の画家、平山郁夫の作品だったりして、そんなに感慨深いものでもなかったのだが、中で見てる間に雨が大分止んできたので足を運んで良かったかも。

 

 ということで、そのまま観光を続行。次は薬師寺から歩いて10分くらいのところにある唐招提寺だ。薬師寺もあまり観光地慣れしてないお寺さんだったが、唐招提寺は輪をかけて観光地っぽくなく、うらぶれた感が非常に味を出していた。むしろ、ここまで観光地っぽくなくてお寺の懐具合は大丈夫なの?と心配してしまう。残念ながら金堂は現在大修理工事中で、中を見られるのは講堂のみ。講堂は、現存する唯一の平城京の宮殿建築だそう。

 

唐招提寺も世界遺産だ。

 

寺全体がこういう雰囲気というわけではないが、

独特のうらぶれた感が伝わる写真だと思う。

 

 唐招提寺は、聖徳太子に招かれて仏教を広めるために来日した鑑真が創建したお寺。その境内の奥の方には鑑真のお墓があるのだが、本当に奥の方にある上に、木々に頭上を覆われていて道は暗く、しかも観光地っぽくないから人もあまり歩いていないので、うらぶれた感を通り越し、神聖な雰囲気が漂っていた。鑑真が何をした人か、その時は全く覚えていなかったのだが、苦労して日本へ渡って仏教を広めた人物が、この静かな木漏れ日の中の下に眠っていると思うと自然と手を合わせたくなる。

 

林の中をどんどん歩いていった奥に、

 

鑑真和上御腸廟がある。

 

どうでもいいのだが、この林は苔がびっしり生えていて、その緑がとても綺麗だった。

 

 さて。雨も止んできたところで唐招提寺を後にして、次は法隆寺だ。法隆寺の最寄駅はJR関西本線の法隆寺駅なのだが、唐招提寺の最寄駅の近鉄西ノ京駅から電車で行くとすると、西ノ京から更に南下して近鉄郡山駅で降り、そこから徒歩10分くらいのところにあるJR郡山駅まで歩き、そこから関西本線に乗るのがベストな経路になる。近鉄郡山駅の近くには郡山城や郡山金魚資料館(郡山は全国屈指の金魚産地らしい)などがあり、時間があれば行ってみたいとは思ったのだが、奈良の他の町と同じように観光地が非常に分散して位置していて時間がめちゃめちゃかかりそうなので、今回は郡山は素通りすることに。

 

  

郡山では道路の随所に金魚の町らしいデザインが施されているのが微笑ましいです。

 

 

 郡山からJRに乗ること2駅で、法隆寺駅へ到着。法隆寺駅という名前はついてるものの、駅から法隆寺までは歩くと20分くらいかかり、外は雨もぱらついているので、法隆寺まではタクシーで行くことに。

 

法隆寺駅は屋根が瓦でできていて、見た目がお寺っぽい。

 

 柿食えば、鐘が鳴るなり法隆寺。世界最古の木造建築物である西院伽藍は8世紀頃には今の形に再建されていたということで、薬師寺の東塔と同じく、1,300年近くの間、この地にこの姿で建っていたと思うと歴史を感じるはずなのだが、修学旅行生の団体や韓国人のツアー客が大勢いてうるさく、薬師寺ほどの感慨深さはあまり感じないまま見終わってしまった。観光地化してしまった名所ゆえの哀しさか。

 

境内への玄関口となる南大門。これは15世紀再建の新しい建築物。

 

西院の中門。両脇に立つ金剛力士像は日本最古の仁王像。

 

法隆寺は日本で初めての世界遺産だ。

 

そして五重塔。堂々たる存在感には圧倒された。

 

 上の写真は西院の建築物だが、この後、西院の他の建物を一巡し、東院にも足を運んで法隆寺は終了。境内が広くて見るべきものが多いので時間はかかったが、印象に残ったものは結局少なかったように思う。降り続ける雨の中を歩いて回るのに疲れてしまったからだろうか、それとも午前中の薬師寺と唐招提寺の雰囲気があまりに独特だったからだろうか。まぁ、そろそろ雨の中の観光も辛くなってきたことだし、もともと今日は法隆寺まで行ければヨシという予定だったこともあって、法隆寺を後にしてホテルに戻って一休みすることにした。まだ夕方になってない時間ではあるが、スケジュール的には目標を達成できたのでこれで十分だ。

 

 

 ホテルで一休みした後は夕飯。奈良で夜を食べるのも今日が最後になるので、せっかくだから今晩は奈良らしいものが食べられるお店に行きたいと思い、ガイドブックで豆腐料理屋さんなんかを見つけて電話で予約しようとしたのだが、どのお店も満席で予約が取れず。がーん。夕方に予約しようとしても遅いのか・・・ 仕方がないので、食べログで美味しそうな店を探して予約することに。ホテルの部屋でウェブにつながるって、いざという時に便利だ。

 

 予約したのは、新大宮駅(近鉄奈良駅から1駅)から歩いて数分にある割烹の 「川波」 というお店。食べログでは、ご主人が自分で野菜を育てて作り、それを料理して出すという 「土の料理人」 ということで評判になっていて、コメントを書いてる人たちが軒並み高評価を出していたのでこの店を選んだのだが、店構えは何てことない居酒屋風。アパートの1階のテナントを借りてやっている小料理屋のようで、何の情報もなしに店の前を通っていたら、間違いなく通り過ぎてたと思われるような雰囲気だ。お店の中もそんなに広くないのだが、通されたのはお座敷の席で、頼んだのは12,000円の懐石料理コース(予約の時に既にコースを決める仕組みになっている)。

 

 これが大当たりの美味しさ、そして大当たりのボリュームだった。最初に出てきた八寸は、どれも上品で、まぁまぁの美味しさかな、くらいだったのだが、2品目の土瓶蒸しが絶品で、思わず 「美味しい!」 と声に出てしまうほど。その後の刺身や焼き魚も、オーソドックスながらこだわりのある味付けで大満足。そして極めつけは、その次に出てきた生牡蠣だった。生牡蠣はかなり苦手なので、1人あたり3つもカキが出てきたのを見た時はむむむむ・・・と思ったのだが、それまでの料理の味を考えると、もしかして美味しいかも・・・・と思って食べてみたら、カキが苦手な僕でも全然食べられる美味しさにびっくり。味付けとしてはポン酢のようなドレッシングをかけていて、その上に野菜を乗せたサラダのような感覚なのだが、このドレッシングが爽やかにカキの苦味を消していて、いや、そもそも苦味が少ないカキなのかもしれないが、とにかく3つともあっという間に平らげてしまった。人生で生牡蠣をこんなにたくさん、そしてこんなに美味しく食べたのは最初で最後になるかもしれない。と書きながら、またあのカキを食べたくなってきた。それぐらい美味しかったのです。

 

1品目の八寸。見た目がきれい。

 

2品目の土瓶蒸し。って、中身が写ってないから載せても意味がない・・・

 

そしてこれが絶品の生牡蠣2人前。どれも立派な大きさで、

この一皿だけで10,000円くらいかかる店があってもおかしくない。

 

 ここまでで既に5皿。どの皿もしっかりボリュームがあるので、この時点で結構お腹いっぱいなのだが、この後には米茄子を容器にした米茄子の煮物、そして2杯はお代わりできる量の松茸ご飯と続き、大変なことになっていった。美味しいからもっと食べたいんだけど、お腹いっぱいで本当に苦しくて苦しくて、食べ物を口にするのが辛いという状況に追い込まれたのだ。コース料理でお腹が苦しくなるほど食べることはたまにあるが、ここまで本気で苦しくなったのは初めてなんじゃなかろうか。そしてダメ押しのデザートはフルーツ盛り合わせ。ちょこっと一口果物が出てくるとかじゃなくて、3種フルーツの盛り合わせ。もー、苦しくてたまらん。でもこのフルーツがまた美味しくて・・・・ でも苦しくて・・・・

 

米茄子の煮物。

自分で育てた野菜が自慢のご主人だけあって、素材の良さが活きた一品だ。

 

とどめのデザートは柿に梨にグレープフルーツ。

もう食べられない・・・

 

 結局、店を出る時は 「美味しかった」 より 「苦しい」 ばかり口にしていて、ホテルまで歩く間に何とか腹ごなしを、と思ったのだが、あまりに苦しくて歩くのを休むほどに。ホテルに着いてもしばらく横になるしかできなかったっけ。いやぁ、それにしてもこの味、この量で12,000円は安い! 奈良に住んでたらきっと何回も足を運んでると思う。そして、2日目の飛鳥で入った萩王もそうだったけど、こういう美味しい料理たちに出会えるのが旅の醍醐味の一つなのだ。そういう意味でも、今回の奈良大和路は充実した旅行だった。もし奈良や飛鳥に旅行に行く人がいたら、飛鳥の萩王と、新大宮の川波を、自信を持ってお薦めします。

 

→伍日目